すたでぃ? |
朝、いつものように登校すると、生徒用玄関の奥に人だかりができていた。 そこにあるのは生徒向けの掲示板で、白い紙がでかでかと貼り出されていた。 たくさんの数字と名前が順序よくずらりと並んでいる。先日行われた中間テストの順位表だろう。 静雄も他の生徒たちと同じように、その前で足を止めた。 (あった) 左上から順に、つまり1位から順に名前を目で追っていくと、8と書かれた横に、平和島静雄と書かれているのを見つけた。 それをさほど喜びもせず、かといって悔しがりもせず、静雄はそこを立ち去ろうと踵を返した。 「へぇ、意外と頭いいんだ」 振り返った先に、臨也がいた。しかも真後ろに。完全に気を抜いていた静雄は、肩を跳ね上げた。 赤い瞳を細めて綺麗に笑う。 「朝っぱらからそのツラ見せんじゃねぇ。気分が悪い」 「酷いなぁ、せっかく褒めてるのに」 「手前の褒め言葉は嫌味にしか聞こえねぇんだよ」 そう、嫌味にしか聞こえない。 なぜならこいつは、学年1位なのだ。あの医者志望の新羅を差し置いて。 毎日あの手この手で嫌がらせを仕向けてくるこいつに、いつ勉強をする時間があるのだろうか。 まぁきっと、普通に授業受けてるだけで理解できてしまう部類の人間なのだろう。本当に腹立たしい。 「本当にすごいと思ってるよ?シズちゃんみたいな単細胞に上位に滑り込めるほどの脳があったなんて」 「手前、それは微塵も褒めてねぇからな」 ああ、もう、イライラする。なんなんだ朝っぱらから。 静雄はじわじわ押し寄せる怒りの波をなんとか堪えると、早く臨也の前を立ち去ろうと進行方向を変え、歩き出した。 「ねぇシズちゃん」 ぐい、と腕を強く引かれ、後ろに引き戻される。臨也の細い腕が静雄の腕を掴んでいた。 人混みの中で、引き寄せられる。 「勉強、教えてあげてもいいよ?」 「…は?」 ぽかん、と口を開けっ放しにして臨也を見ると、優しげに顔を綻ばせた。 「1人で勉強していたら限界があるだろう?シズちゃん、友達居ないから聞くこともできないだろうし」 「うるせぇな」 臨也の言ったことは全て図星で、思わず口角が下がる。 本当に解らないことは新羅に聞くけれど、静雄の性格上頼りになりっぱなしになるのはなんだか申し訳なく、満足に理解することはできない。 だから、臨也の申し出は、とても魅力的なものでもあった。 「1ヶ月もすればすぐに学年末テストだ。このまま行けば、また同じような結果になるよ」 「…べつに、このままでも満足してる」 「本当に?」 本当にそうだ。静雄にとってこの結果は可もなく不可もなく。これ以上は望んでいない。 けれど静雄の中で、ある想いが胸を高鳴らせていた。 もしかしたら、次のテストで臨也の上に立てるかもしれない。 いつも人を見下しているこいつを越えることが出来たら、どんなに気持ちいいだろう。 臨也に勉強を教えてもらって臨也より上にいこうなんて、矛盾した考えだけれど。弟子が師を越えるなんて、昔からよく言われる話でもある。 静雄の心は大きく傾いた。 ……だがここで、1つ大きな疑問が浮かぶ。 「…なんでいきなりそんなこと言うんだ」 「なんでって?」 「だから、手前が勉強教えるなんて、裏があるとしか思えねぇ」 臨也と静雄の仲の悪さは、校内に知らない人がいないほど有名な話だ。それなのに、そんな友達のようなことを、何故いきなり言い出したのか。 臨也は、それまで顔に貼付けていた嘘臭い笑みを消し、真面目な顔で静雄を見つめた。射抜くような視線が、静雄を捕らえる。 「シズちゃんと一緒にいる理由が欲しいからさ」 「なっ……」 耳元で囁かれ、静雄は身をのけ反らせた。顔に熱が集中していく。耳が熱い。 赤くなっているだろう頬を慌てて隠すと、臨也はまた元の表情に戻っていた。 「勉強中はシズちゃんの嫌がるようなことはしない。だから、シズちゃんも俺に暴力は奮わない。一時休戦。わかった?」 呆気に取られ、頭が混乱して、静雄は思わず、素直にこくりと頷いてしまった。 「じゃ、協定成立。今後の予定はメールで知らせるよ」 またねシズちゃん、と言って、臨也は足早に人混みを抜け、自分のクラスへ行ってしまった。 静雄は立ち尽くしたまま、未だに熱い頬を両手で包んだ。 「なんなんだあいつ……」 耳元を掠めた言葉は何度も頭を巡り、静雄の頭を痛くさせた。 張り出された紙の左上を睨んで、絶対に勝ってやる、と心に誓った。 end 続くっぽいです^^* 臨也くんは本当に羨ましい人種です← テストやだなあー… |