素顔を見られたとしても幸い、寝ぼけていたのだからわかりっこない。そもそも平生は雷蔵の顔を借りているから、俺だってことは気付くはずもなかろう。彼女は、くの一でもないし。
春画の場所はわからないから、いずれ勘右衛門に取りに行かせるとして、はてこの熱い下腹部をどうしようか。 とりあえず厠にでも行くかと、顔を戻してハルの部屋から出て少しすると、風呂上がりらしい雷蔵と兵助に出会った。
「あれ三郎、どうしたの?」 「なにが?」 「顔も耳も赤いが、熱でもあるんじゃないか?」
雷蔵と兵助に代わる代わる物珍しげな顔をされ、そこで俺はようやく気恥ずかしくなって、何でもないと逃げるように二人を後にした。
(そんなまさか、鉢屋三郎が、こうも振り回されるなんて!)
… … …
その夜は結局、気を抜くことも風呂に入ることもせず、冷たい井戸水を被って頭を冷やした。
(……早く忘れないと、兵助のこと、他人事だと笑えなくなるじゃないか)
それでも浮かんで離れないのは、気持ち良さそうな寝息と、闇に浮き上がるような胸元の白さと、やわらかなあの頬の感触ばかりで、気付いたら烏が鳴いていたのだった。
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鉢屋くんの反応は正しい そして割と純情
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