「すみませんあなたのおへやをおかりして! さがしものですか、わたしもおてつだいしますね!」 「あ、いやその、」 「たぶんあるとおもいますが、どんなものですか?」
女は乱れた寝着のまま、ぐいぐいと近寄ってくる。 あと一歩でも近付いたら変な事しそうだから本当、あっち行ってくれ。寧ろ寝ててくれ。 だっから……合わせ目が緩くなってるんだっつーの!!
しびれを切らした俺は、ちょっと失礼します! と叫んで女の寝着をものすごい早さで整える。 顔が熱い。 そりゃそうだ、今俺、素顔だもの。
「お?」 「この乱れでは風邪を引く。探しものは後日取りにくるので、今宵はもうお休み……いっ!!?」 「すー……」
いきなり女は、突っ立ったまま俺の肩にゴンッと額をぶつけるやいなや、寝息を立てはじめた。 ――どうやら、はっきりしたと思っていた意識は勘違いで、未だ寝ぼけていただけだったようだ。夢遊病の気でもありそうだな。
(……はあ、仕方ない)
よっと女の抱きかかえると、そのまま敷布団へ寝かせてやる。今度は合わせ目も乱れないよう、きっちりと毛布もかけて。 そのまま流れるように、すやすやと気持ち良さそうに眠る女の頬に触れる。ふにふにと触り心地がよい。間違っても妖怪ではないし、変装でもないちゃんと己の顔だ。
「……ハル、か」
兵助が無意識の内に惹かれていってるのも、わかるかもしれない。
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