がさごそ探していると、大分注意散漫になっていたらしい。 押し入れに置いてあった、恐らく女の私物をどさどさっと薙ぎ払ってしまった。
(――っ!!)
頼むから気付くなよ、と願っても駄目だった。 きぬ擦れの音と、緩やかに母音を落とす声が聞こえた。女が起き上がるのが手に取るようにわかった。
(しまった、この“顔”は知れている!)
今この場で雷蔵の顔をしていたら、俺もだが雷蔵も不利な立場になる。というか俺が雷蔵に怒られる。 加えて、いつもなら他の顔の変装道具も持ち運んでいるのに、今夜はこの後風呂に行く予定だったから何も持ってない。“本当の顔”以外は。
……くそ、迷ってる場合じゃない。 俺はしゅるりと雷蔵の顔を解いた。
「んあ……だれ……?」
寝ぼけ半分なのか、上半身だけ起こして目をこする女をどう言いくるめようかと、試験の時より何十倍も頭を回転させる。
「ま、前にこの部屋を使っていた者だ。夜分にすまない。どうしても必要な探しものがあって」 「はあ……さがしものですか……、」
うつらうつらしながら、ゆっくり俺の言葉を繰り返していた女は、いきなり意識をはっきりさせたようにこちらに顔を向けた。
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