そう、生徒たちを誑かしているのにも関わらず文川アキが罰せられないでいるのは、なまじ彼女に“特別な力”とやらがあるからである。


「あれは、本当に、」
「視えたのよ。白昼夢のような感じかな、裏門辺りに老婆を装った何者かを視たの。目蓋の裏でね」


千里眼とか何とか云う人もいるみたいだけど。
まるで、何でもない事のように腕を組んでいた文川アキは、自分の蟀谷に人差し指を伸ばすとトントンと弾ませた。


「先に視えたのは良かった。でも、あの間諜は自害してしまったみたいだから、完全に役に立てなくて申し訳なかったけれど」
「貴女が申し訳なく思うのは学園にだけですか」
「おっしゃる意味が?」


語気を強くして雷蔵が見据える。腹辺りで自分の交差させた肘を組み寄せる彼女は、ハルさんにはない威圧感がある。それであんた、何が言いたいの? 彼女の眼が笑った気がした。


「ハルさんは、貴女のような力は無いかも知れませんが、貴女が自由な行動を取れば取るだけ、あの人に被害が、」
「へぇーー、君、あの女の子の事が好きなんだね」
「!! そういうことを言ってるのではなく!」
「おい、」


俺は雷蔵をからかわれるのがすごくすごく嫌いで、ハルさんを侮辱されたような気もして、自分でも意識せずつい怒気を含んだ制止の言葉がつい出た。文川アキはじろりと俺の目を見る。全身の毛が逆立つようだった、この女、気に入らない。


「すごい目をするんだね。嫌われてしまったかな?」
「好きでも嫌いでもありません」
「そう。無関心が一番酷いって知ってる?」
「早く部屋に戻ったら如何です? 貴女と話をしても意味がないと思うのですが」


もしかしたらさっきまで纏っていた雷蔵の苛立ちが俺に移ったのかも知れない。それほどに強い拒否反応が出ていた。女は少し黙って俺たちを見ていたが(或いは、何かを“視て”いたのかも知れないが)やがて何も言わずに背を向けた。わかっていた事だけど、ハルさんへの感情の蓋をあんなあからさまに開けられると、結構キツいものがあるなあと俺は思っていた。
多分、俺も、雷蔵と近い感情を持っているんだよ。
そんなこと言えるはずも無かったのにな。





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