「――これで、察しはついたかと思いますが、彼女の相手をしていたのは多分、五年の者です」
あれから廊下を行き進んで、ろ組の長屋の方に訪れた。わたしの部屋の前で立ち止まると、三郎はわたしの手を掴んだまま、苦々しげに話し出す。何と無く、いつも話をしてくれる五年生の子たちじゃなくて良かったなあ、と思った。
「先程ハルさんに失礼を働いた者たちも、同じようにあの女と交わったのだと思います。証拠がない上に、先にある房中術の演習だと言われればそれまでですが……」 「ぼうちゅう? ん?」 「あ、いや、」 「知らなくていいですよ」
新しい声が加わった方を見ると、寝着姿の雷蔵が立っていた。彼がわたしと三郎の重なった手に視線を送る前に、すごい早さで三郎が離した。ちょっと吃驚した。 雷蔵、少し怖い顔をしている。なにか怒っているのだろうか?
「三郎、もう夜も更ける頃だ。今からハルさんをつれ回すのは、」 「あっ雷蔵ちがうんだ、三郎に助けてもらって、それで」 「助けてって……なにかされたんですか、誰かに?」 「えっ、と……」
間違いない。雷蔵、機嫌悪いな。なんかめっちゃピリピリしているよね? あまり下手なこと言って火に油注がない方がいいと判断したわたしは、曖昧に言葉を濁して口を閉じた。雷蔵もそれ以上は言及して来ず、かぶりを振ると、「温かくして眠ってくださいね。冷えますので。三郎、帰るよ。」と言った。それはもう、絶対的な声音だったので、三郎は何か言いたげにわたしの目を3秒くらい見詰めたが、渋々雷蔵の隣に収まった。
「二人ともおやすみなさい」 「おやすみなさい」 「よい夢を」
雷蔵も三郎も、わたしがきちんと自室に入って戸を締めるまで廊下から動かなかった。見守るように、監視するように。
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