――団蔵視点――



このところずっと会計の仕事が忙しくて、溜まりに溜まった会計委員全員の洗濯物を籠に背負って、僕は川へ行く途中だった。その時に、あの人に出会った。見たことのない、綺麗な女の人。


「こんにちはー」
「あ……こんにちは」


その女の人は、よく5年生の先輩たちが寝っ転がっている石に腰掛けて、何か考え事をしているようだった。
僕は彼女の横顔をちらっと盗み見て、やっぱり綺麗だなあと思ったその瞬間、ねえ君、と話し掛けられたからすごくびっくりしたんだ。


「はっはい!」
「君は、この学園の子だよね」
「はい! 一年は組加藤団蔵です!」
「団蔵くん、ね」


猫みたいにすうっと目を細めたその人。丸で品定めをされているみたいで、自分は店先の魚にでもなった気分だ。
女の人は暫く黙ってぼくを見ていたが、ようやくゆっくりと話始めた。


「団蔵くん、君にひとつお伽噺をしてあげるね」
「お伽噺?」


首を傾げる僕に女の人はそう言うと、腰掛けていた石の上から降りて近付いてきた。


「みんなにはまだ話してはいけないよ」


そう言って、ぼくの唇に人差し指を掠めた。三日月みたいな赤い唇が笑っていた。




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