「さて、そういう事じゃから、ハル。文川さんを暫く支えてやりなさい、同じ立場として」 「はい!」 「えっ同じ立場って……」
ここで漸くわたしたちは顔を合わせた。近くで見ると、本当に綺麗な顔付きをしている人だなあと思わず口に出してしまいそうであった。
「えっと、初めましてハルといいます。わたしも気付いたらこの時代に来ていて、学園長先生のご厚意で住み込みで働かせて頂いてます」 「あ、そうだったんですか……道理で」 「?」
道理で、って何だろうと不思議に思うとフミカワさんは、現代にいた頃の知り合いに雰囲気が似ていますと微笑んだ。その笑い方がわたしはとても好きだなと感じたので、きっと仲良くなれるんじゃないかと嬉しくなった。
「わたしはここの生徒には自分が本当はどこから来てどこに生きているのか、すべて隠しています。特にフミカワさんみたく予知夢の力がある訳じゃないし、ただの食堂のお手伝いさんとして振る舞っています。実際そうなんですけどね」 「そうでしたか……私はでも、この時代の人間ではないと言わずとも割れてしまうかも知れません」
ああ確かに、浮世離れしている彼女だから隠し通せないかも知れない。でも、現代からやってきたとはいえ溶け込めない筈がないのだ、この学園の人達はみんな優しいから。 だからきっと、もしあなたがこの時代の人ではないとバレてしまっても大丈夫です、好奇の目に晒されたり村八分にされたりなんかしませんよと言えば、そうですかと嬉しそうに笑ってくれた。
「それじゃあ、私たちの事は一先ず生徒には秘密という訳で」 「はい。特にわたしについては絶対に言わないで下さいね、先生方もですよ!」 「はいはい」
仲間が出来たと、友人が出来たと純粋に喜ぶ自分がいた。的外れな事を言っていたというのに。 彼女の目の奥に潜む仄暗いものを気付かないまま、学園に翳りが見え始めた。
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