暫くの沈黙の後、次は山田先生が口を開いた。
「文川さん、でしたかな。あなたはそれを我々に伝えるために、聞けばどこぞの城より抜け出してきたと」 「はい」 「そこまでしてこの学園に執着する、その意は?」
言葉は悪いが君はこちらの出身の生徒でもなければ、学園長先生とも初対面の筈だろう。あなたが責任感の強い方ならば別の話だが、とそこまで山田先生がおっしゃった時、隣のフミカワさんが静かに涙を流しているのに気が付いた。
「あの、私、実はこの時代の人間じゃないんです」 「「!!!」」 「気付いたら山の道に倒れてて、周りを知らない男たちに囲まれていて、逃げ、逃げたくっても足がすくんで立てなくて……っ」
聴きたくない、と思ってしまった。その先のシチュエーションはドラマに慣らされたわたしには容易に想像ついたから。
「乱暴、受けてる最中に城の主様に助けていただいたのは良かったのですが……そのまま囲われてしまって、」 「そうか、もうよい」 「自分の持つ妙な力にも気付かれて逃げ出したくても逃げれなくて、毎日毎日玩具のように、」 「もう話さなくていいよ!」
一度目静かに制止したのは学園長先生、二度目に遮るように止めた土井先生の大声に彼女は勿論わたしも驚いた。女性が、言わなくてもいい過去を無理に話す必要はないんだと彼は続けた。隣の彼女が、小さく深呼吸をして言った。
「学園が火の海に巻き込まれる前に、夢の中の私自身がこの学園に匿われて助けて頂いていたから、だから図々しいこと承知の上でこの学園にやって参りました」
彼女の涙ながらの話を聴いていて正直、わたしは自分が如何に恵まれていたのだろうと胸が苦しくなった。もしかしたら彼女の越えてきた事柄はわたしに降りかかっていたかも知れないから。
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