あちゃー、確かにこれは怒るわ。 喜三太が篭に入れて持ってきた金吾の着物は、てかてか光るくらいナメクジの這った跡がはっきりしていた。
「まず桶に水を張って、ある程度ぬるぬるを取り除こう」 「はいっ」 「そしたら、裏山の方の川で生地をこすってきれいにする。で、最後に一番日当たりのいいところに干して完成だね」 「はーいっ」
返事は良いんだけどね、と思わず苦笑いすると、全くだなと後ろから同意された。振り返ると、ああ立花くんか。
「立花せんぱあい!」 「や、やあ喜三太」 「立花くんこんにちはー」
ハルさん、どうも。と会釈した彼は、何故か喜三太にひどく集中しているようだった。というより、警戒? 眉の端がぴくぴくしている。反して喜三太は、目をきらっきらさせて立花くんに向かうものだから、あーこの子先輩のこと大好きなんだろうなあと微笑ましく思った。
「ハルさん何をしていらっしゃるのですか」 「あ、これはですね、金吾の着物を洗おうとしてまして」 「また喜三太が何かやらかしたのか……」 「また?」
あ、いやこちらの話です。立花くんは何故かふうと溜め息を吐くと、喜三太あまり迷惑をかけるなよと、浅葱色の頭を撫でた。
「立花先輩は何処に行かれるのですかあ?」 「実習だよ、組毎のな。では失礼します」 「あ、はい、いってらっしゃい」
女の人のそれと同じくらい優しく微笑むと、立花くんはその綺麗な髪を揺らして去っていった。
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