「うまくいくと思ってたのに、全然だった」
「お、おう、」
「怖かった、見られたくなかった、後輩や」


ハルには。

わたしの名前が紡がれた瞬間、抱きしめてくる腕の力が一層強くなって、肩に顔を埋められた。寝着にじんわりと、食満の髪や身体から水が染み込むけどわたしは動けなかった。血の臭いがしてたのもあるけど、それより、彼は泣いているんじゃないか、そればかり気にしていた。


「首が落ちる瞬間、俺、目を閉じちまった。情けないよなあ……」


情けなくなんかないよ、と言いたかったけど出来ない。それは発言できない、わたしの言葉では軽すぎる。だってただの、人間だから。
まるで子どものように震える彼を只々抱き留めるだけしかできなかったのが、悔しい。


「帰ろう。帰って、風呂に入ろう」
「、ん」
「身体が冷えたら悪い事ばかり考えてしまうよ」


そしたらお握りでも差し入れするからさ。
左手で食満の濡れた後頭部に手を置いた。氷に触れたみたく冷たくなっていて、このままいれば、いくら鍛えている六年生の彼でも体調を崩してしまうだろうに。


「……ハル、足、」
「ん? あーそうそう、飛び出してきたから裸足だったわ」
「ごめんな」
「はっ!? いやいや謝らなくていいから、わたしがしたかっただけだから!」


両手であたふたと弁明すれば、漸く離れた彼は右手で顔を覆った。何やら笑っているようだ。
よかった少しでも元に戻れたなら、食満の罪悪感に比べたら、裸足の傷くらい屁でもないさ。




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