「け、食満くん! けまどこ!」


寝入っているだろう学園の皆に迷惑かからないように、申し訳程度に声を出して彼の名を呼ぶ。地面とくっつく裸足の足がぴりぴり痛い。小石でも蹴り飛ばしたか。


「……何しにきてんだよ」
「!」


声がする。木の上だ。よかった、あまり遠くに行っていなくて。機嫌は良くないみたいだけど。


「何って、なんでも」
「行けよ。頼むから、行ってくれ」
「なんで」
「誰にも会いたくないんだ」


くぐもった声になる。まるで顔を覆っているみたいに。
……薄々気付いていた。あの血が食満のものじゃないことくらい。わたしと目を合わせた時、彼が痛ましい位怯えたことくらい。きっと、人には言えない、心が冷える経験をしたのだろう。それがここの規則だから、彼は忍になるのだから。


「血だらけだ、お前も見ただろう」
「うん。見た」
「人を殺してきたんだ。だから……」
「わたしは!」


声を張り上げれば、彼がびくっと震えたのが空気でわかった。すうっと息を吸う。
わたしは、忍の事なんも分からないけど、それが君たちの道ならば受け入れるだけだから、だから、


「怖がったり、拒んだりしないから、大丈夫だから、降りといでよ!」


そんな水びたしで風邪を引くでしょうが、と続くはずだったわたしの言葉はぴたりと止まった。耳元に人の呼吸する音が聞こえる。いつの間に地上に降りた食満に、抱き寄せられていた。




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