――食満目線――



「おう伊作、遅かったな。また医務室がめちゃくちゃになったのか?」


無言で開かれた自室に現れた伊作は力なげに目だけ笑うと、信じられないことを口走った。


「ハルさんが目を覚まさない。原因不明なんだ」
「は? なんだよ、原因不明って」
「わからない。新野先生に診てもらったけど、身体も冷たいままで、意識がない」


身体が勝手に動く。医務室へ飛び出していきそうになった俺を止めたのは、伊作の鋭い声だった。


「君が行って何になるの。今はそっとして、明日、会いに行きなよ」
「……外傷は……」
「ないから。落ち着いて」


それじゃあ僕はまた医務室に戻るよと伊作は消えた。

……安心した。よかった。少なくとも誰か敵方や、もしくは学園内部の浮かれた奴らに何かされたわけではなかったから。
明日、朝一で顔を見に行こう。もしかしたらその頃には目が覚めて、俺の名前を呼んでくれてるかもしれないから。


… … …


次の日の朝早く、医務室に訪れたつもりだったが既に先客がいた。ハルさんの眠る隣にぴたり、離れぬように正座しているのは仙蔵だった。


「ハルさんの容態は、」
「依然として昏睡状態だ。原因は……物の怪の類だと聞いた」
「はあ?」


仙蔵から聞くに、土井先生曰く何らかの事情でハルに物の怪が取り憑いてしまったらしい。そいつが彼女の身体に巣喰って、生気を根こそぎ奪い取るつもりだとか何とか。


「なんで土井先生はそんな憶測を立てるんだ」
「憶測ではない、現に彼はもうその物の怪の下へ行かれた」
「憑依してるんじゃないのか?」
「もうとっくに死んでいるからな。本体を処理するんだそうだ」




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