――きり丸目線――
「理由はなんなんだ?」 「わからない、けど、事故で池に溺れたんじゃないかな」 「事故って……」
急ぎ足で廊下を歩きながら乱太郎に問い掛ける。本当に、ここ一週間ほどハルさんは明らかにおかしかった。オレは最初から気付いてたけど、は組のみんなは四日目あたりからようやく「何かがおかしい」と気付いたようだった。嫌な予感が的中したのか、オレはそれきり何も言えなくなった。
「あ、潮江先輩、久々知先輩こんばんは」 「おう」 「ああ」
医務室の前には二人の先輩が待機されていた。それより少し奥には、他の上級生の面々もちらほら見える。この人たちも何か関わっているのか、よくわからないけど襖を開ける乱太郎に続いた。
「乱太郎ありがとう。あ、きり丸か」 「こんばんは善法寺先輩。あの、ハルさんは」 「うん。まだ眠ってる」
新しいものを卸したのか、綺麗な寝着を纏ったハルさんの頬は気持ち悪いほど青白くみえた。あまりに生気が見られないので、オレは、この人が死んでしまったんじゃないかと、ぐるぐる渦に飲まれそうになった刹那。
「きり丸。もう夜も遅いから寝なさい。心配なのはよくわかるけど、面会は明日以降にしてくれるかな」 「伊作先輩は……」 「僕は新野先生をお呼びしてここで介抱を続けるよ。だから、君たちも、今夜はもう帰って」
先輩はにこりと笑って、オレたち一年に気を遣ってくれる。反対に、上級生には一度も笑わずぴしゃりと言い切った。少し怖かった。
善法寺先輩を残して、オレらは廊下に出る。上級生たちは善法寺先輩に言われたからかもう既に消えていた。伏木蔵が後ろ髪引かれたようにちらちら振り返っていたけれど、オレも心配だよ。怖いよ。だってあんな、血の気のない人形みたくなってたんだぞ。 もしハルさんが……って思うと、眠れるわけがないよ。 オレの不安を汲み取ってか、それ以外乱太郎は一言も話さなかった。
← | →
|