「おっしゃってる意味がよくわからないのですが、」 「嘘つき。あたしを抱きたくて仕方ないって顔してるくせに」 「っ!!」
カアッと顔に血が上る。なんなんだ、どうしたってんだこの人。ハルさんは色気とか女の匂いからは程遠い人だと思っていたのに、今目の前にいる彼女は正しく女だった。勘右衛門もこの色香に充てられた、というのだろうか。冗談じゃない。そりゃ俺も男だからぐらぐらきたけど、こんなんじゃない。俺が好きになった人は、あの人の名は。
「――ハルさん、風邪を召します。寝着を羽織って下さい。勘右衛門、」 「ああ」
あれで頭の切れる勘右衛門だから目も醒めたのだろう。ハルであって彼女でないこの女の足元にある布を掴み上げると、勘右衛門は羽織らせてやった。
「やめて、熱いの! あなたたちもあたしが好きなんでしょう!? 抱きたくて仕方ないでしょう!!」
嫌々と暴れて寝着を着ることを拒絶するハルを、勘右衛門は眉間に皺を寄せながら羽交い締めに動きを抑える。俺は彼女の手首を掴んだ。じっと真っ直ぐに目を見つめればそれは猫目であった。……物の怪憑きか。
「私の好いた人はお前ではない。さっさとこの人の中から出ていけ」 「っ、いやっ、離して!!」 「ちょっ、暴れんな!」
見抜かれたからかは判らないがハルはひどく暴れ出した。揉み合う内に尻餅をついた勘右衛門に抱えられるようにハルも倒れ込む。俺は目に毒であった彼女の肢体を隠すように(といっても全て見てしまったけれど)しゃがんで前合わせに手を添えた。
「何をバタバタ騒いでいるんだ!」 「ちょっとハルさんここにきてな……」 「「あ」」
時機が悪すぎて頭を抱えたくなった。
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