先に口を開いたのは立花であった。
「お前ら、何か臭わないか」 「ああ。明らかにおかしい。ハルはあんな科を作るような真似はしない女だ」 「同感ですね」
食満に続いて鉢屋が首を縦に振った。先程のハルと土井のやり取りに、少なからず皆違和感を覚えているのだ。――そこに恋慕があるかどうかはこの際抜きにしても。
「雷蔵が見たってのは、あのでれでれになったハルさんのことだろ」 「うん。あんなになってるなんて、思わなかったけど」 「土井先生と本当に恋仲ならば私たちは何も言えんが、正直面白くないな!」
頭の裏で両手を組んであっけらかんと言い放つ七松だが、目までは笑っていなかった。いや皆がそうだ。面白くない、まさにこの一言につきるのだ。久々知に至っては言葉すら殺している始末である。
「……ふむ。俄かには信じられんが、様子見だな」 「そうだな」 「そうっすね」
腑に落ちない感情を持て余しながら、最上級生は一足先に長屋に戻っていく。残された五年生、不破と鉢屋は先日互いにハルについて話したこともあってか気まずい空気のまま――と、その時。
「っ、」 「!!? えっちょっ兵助どうしたの大丈夫!?」 「なんだ兵助、どっか痛いのか?!」
ぽろぽろと唐突に涙をこぼす久々知にあたふたと慌てる二人。なんでもない、と乱暴に涙を拭う久々知の本心はなんとなく理解していた。
「悔しい、とか、そんなんじゃないんだ。ただ、やっぱり」 「いいよ兵助。何も言わなくて」 「喋んな。わかるから」
みんな同じ気持ちだから、と続けることは鉢屋には出来なかった。認めたくなかった。
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