――きり丸目線――
俺の名前を呼ぶハルさんの声は、ハルさんなのに違う人が話してるみたいだった。
きっといつもなら、ハルさんに抱きしめてもらうなんてそんなこと、嬉しすぎてしょうがないはずのに、何故か複雑な気持ちだった。みんなに見られてて恥ずかしいから、とかじゃない。別の人の抱きしめられたってちっとも嬉しくない、そんな感覚。 ――でも結局はハルさんの腕の中に収まってしまった。ふわり漂う匂いは、前に河原で抱き寄せてくれたそれとは異なるような気がした。
「きり丸、」 「……うん」 「どうしたの?」
元気ないわね、と頬っぺたをすうっと撫でたハルさんはゆっくり微笑んだ。きれいだ。きれいだけど、違うんだ。俺の好きなあなたの笑い方じゃないんだ。忘れちゃったの? 喉まで言葉が出かかった。 もう一度ぎゅうっと俺を抱きしめると、彼女はパンパンと手を打ち鳴らした。それが合図だったように、みんなハッと我に返る。
「みんなサッカーしてたのかしら。あたしも一緒にしたいんだけど、混ぜてくれる?」 「え、あ、もちろん構いませんよ」 「みんなでやった方が楽しいもんねえ〜」 「ふふ、ありがとう」
よーし勝つぞー! 元気よく両腕を空にあげるハルさんからは、さっきまでの妖しげな空気が全く無くなったので、勘違いだったのか? みんな狐につままれたような顔をしていたが、次第にいつも通りに運動場を駆け回る。
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