――三郎目線――
「なんか僕、食堂にくると落ち着くなあ」
席についた雷蔵が、にこにこ笑いながら開口一番そう言った。俺は暑くもないのに背中に汗が流れた。
「そうか。腹が減っているからだろう、この大食漢め」 「ははは。否定できないなー」
僕と勘右衛門が、僕らの中で一番食べるもんね。もしかしたら五年生で一番食べるかもしれない。雷蔵は機嫌が良さそうにからから笑う。 俺は意地の悪い言葉を吐いてしまった。
「――じゃあ否定できない事をもうひとつ」 「なんだい?」 「食堂が、じゃなくて、ハルさんがいるから落ち着くんじゃないのか?」
ぴたり、雷蔵は止まった。 心中突かれると右眉がぴくと動く癖を彼は知らない。真剣な顔になった。まずい怒ったかな。
「……どういう意味だよ」 「そういう意味だよ。わかるだろ。寧ろ、私が気付いてないとでも思った?」 「……まったく、三郎には敵わないね」
雷蔵はいつも通り、ふわり笑って俺の愚問を嚥下した。 迷わない。迷わないんだ。 その事がひどく俺を吃驚させたし、同時に、泣きたくなった。 敵わないのは、俺の方だから。
「……雷蔵、愚見だとは思うがね」 「うん?」 「ハルさんは、あの人自身は塵も自覚してはいないが、不思議に惹きつける力を持っているよ」 「うん、わかるよ」 「!……恐らく、君と同じような感情を抱いてる者は少なくはないさ」 「お前みたいに?」
稀にみる雷蔵の悪戯な笑み。そうか、お見通しというわけか。嫌になるね、君は時々、誰より鋭い。
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