――タカ丸目線――
ハルの髪が、一番最初に触れた時より見るからにずっと傷んでいるのは前から気付いていた。髪結いの眼をナメないでほしいな。
「それじゃあ今夜迎えにくるよ」 「ありがとうございますー助かります!」 「お役に立ててなによりです」
じゃあまた後でね、とひらひら手を振って、下級生みたいに素直に喜びを示すハルから離れる。 少し廊下を行き進んで、俺はようやく足を止めた。口を開く。
「……何も変な事はしてないからね、その噛み付くような視線やめてほしいなあ」
久々知くん。 名前を呼べば、シュタッと俺の後ろに彼が降り立つ音が耳に届く。 いつから見ていたのかは知らないけど、あの人の髪に触れた瞬間から、久々知くんはぶわあっと嫌な感じの気を発散させていた。確実に、俺にだ。
「気付いてたか」 「そりゃあ気付くよ〜だって久々知くん、怖いんだもん」
そんなにあの人が気になってしょうがない? そう言うと、彼は耳まで赤くして黙り込んだ。なんだ、案外かわいいもんだな。揶揄するようにつついしまって申し訳ないね、俺も大概性格よろしくない。
「ちが、俺はそんなんじゃなくて、たまたま、」 「うん。判ってるよ」
、、 偶然そこに居合わせたんだよね。 にっこり笑えば、彼はぎゅっと拳を握りしめた。
「それじゃあ僕もう行くね」 「斎藤、さっきあの人と、なに話して、」 「――喜八郎が我が儘言ってごめんねと、謝っただけだよ」
嘘はついていない。
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