「喜八郎、滝が探してたよ」
「……行かないよ」
「だめだよーまたがみがみ怒られたくないでしょ、終わったらまた来ればいい」


ね? とタカ丸特有のふにゃんとした笑い顔を見せれば、綾部はゆっくりわたしの腕から手を離した。おおおタカ丸くんすげえ!
綾部は何も言わずに背を向けると一瞬でどこかに行った。タカ丸は、やれやれみたいな表情をすると困ったふうにわたしへ笑いかける。


「ごめんね。喜八郎がなんか無理言ってたみたいで」
「え、ああ、無理というか」


わたしの部屋の前にいて、突然外で昼寝しようとか言われてびっくりしただけで……そこまで言うと、タカ丸は目を細めた。


「それは多分、君が元気なく見えたからさ」
「え」
「喜八郎なりに元気づけたいと思っての行動だと、俺は思うよ」


大方、彼の一等席にでも誘われたんじゃない?
にへらと笑って首をかしげたタカ丸。言われてみれば確かにそんなようだった気もする。でもなんで……ああ。独り言を聞かれていたからか。
そんなことも知らないで、悪いことしたなあ。
少し落ち込みそうになる。すると、いきなりタカ丸くんはさらりとわたしの髪に触れた。


「髪も傷んでしまっているね。今夜あたり、整えてあげようか?」
「え、いいんですか?」
「当たり前だよ」


だって俺、元髪結いだし。
そう言うと彼は、いつものふにゃりとした癒し系の笑みではなく、悪戯っ子みたいにニイッと笑った。この人こんな笑い方もできるんだと、お門違いに感心した。




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