――雷蔵目線――



ちいさく鼻をすすって涙を流すハルさんを年上の女性だと頭では解っていても、よしよしと抱擁してしまいそうなほど幼気に見えた。お姉さんというより、ただの脆い女子だった。繋いだ手の平は、僕や級友なんかよりずっと小さくて柔らかかった。

――本当は、もう一つ聞きたいことがあったけれど、今は秘密にしておこう。


「……雷蔵、今思ったけど、」
「はい?」
「演習明けなんだよね。お昼頃まで付き合わせちゃったけど、寝なくても大丈夫なの」
「あはー、実は僕が真っ先にやられちゃって気絶してたんで、体力は余ってるんですよ」


恥ずかしいが、ちょっとした注意不足で中在家先輩の罠にはまってしまったのを思い出した。そういえば、三郎や八左、兵助や勘右衛門はもう学園へ帰ってるだろうか?
僕が買った飴玉、きっとみんなに取られちゃうんだろうなあとかぼんやり考えていると、ハルさんがまた緩く繋いだ手を振り出した。


「雷蔵、今日は本当にありがとう。買い物だけじゃなくって、話を聞いてくれたことも、全部」


生徒には誰にも話してなかったから、なんだか変な感じだけど。とハルさんはいつも通りの笑顔になって、僕はその時確かに心の臓が一際大きく跳ねたのに気付いた。


(まさか、な)
「――あっ! 門のところにみんないるよ、雷蔵待ってたのかもしれないね」


おおーい! 繋いでいない方の手を高く振り上げるハルさんの先には、学園の門の前、僕を除いたいつもの顔触れが並んで立っていた。


「? どうして雷蔵とハルさんが一緒にいるんだ」
「あんまり遅いから心配したんだぞ!」
「雷蔵お土産はー?」
「なんで二人手繋いでんの」


矢継ぎ早に繰り出される、三郎、八左、勘右衛門、兵助の言葉を脇に置いといて、今はとりあえず。


「「ただいま」」




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