「ハルさんは、この時代には似合わない人だから。あなたがずっと未来から来たと言っても、僕は疑わないよ」
そんな風に雷蔵はにっこり笑って言うから、奇妙で不自然で、ここに存在するはずのないわたしという存在を雷蔵は笑って、あっさり受け入れてくれたように思えて、なんだかとても泣きたくなった。
「ハルさん、さっき一つだけって言ったけど、もう一つ質問していい?」 「、うん」 「ハルさんのいた時代には、戦はありますか?」 「戦はないよ」
即答すると、雷蔵はほっとしたように笑った。
「だったら良かった。少なくとも、僕らみたいな忍もあまりいないのだろうけど、戦は全てを奪っては捨てていくから」 「で、でも、まるっきり平和というわけでも、」 「――ハルさん、」
被せるようにわたしの言葉を遮ると、雷蔵は悲しそうな目をして「それは無い物ねだりの話だよ」と言った。ぞっとした。その通りだ。 戦争のない日常は、戦争を知っているものからすれば何よりも平和だというのに。
「……雷蔵、ごめん、なさい」 「謝らないで下さい。何も悪いことはしてないんだから。さあ早く帰りましょう」 「、うん」
まるで保護者のように、すっかり気持ちが萎んだわたしの手を力強く握ると、今度は隣で歩く雷蔵。
「……わたしはもう少しちゃんと、この時代の人たちの気持ちを理解しないといけないね」 「ハルさんなら大丈夫」
だから泣いてもいいんですよ。 彼は前を向いたままそう呟いた。全部お見通しだったのか。ようやく涙がひとつ、頬を伝った。
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