カステラも買おうと決めたことだし、ここで雷蔵にこそっと耳打ちをする。彼はわたしが突然側に寄ったからか、びくっと肩を震わせた。
「おかしなこと聞くけどいいかな」 「は、はい」 「このかすていら、この巾着にあるお金どれを出せば買える?」 「……へ?」
まあ想定内ですよね。雷蔵は鳩が豆鉄砲くらったような顔をしてきれいに驚いた。
「これと、これを二枚出せば買えますけど……」 「(へーそれだけでいいんだ)ありがとう。おばさん、かすていら下さい」
何か言いたげな雷蔵は少し置いといて、お店のおばさんからまだ温かいかすていらを受け取った。
店から離れて、二人歩いている最中。 これはもう下手な言い訳は使えないなとか思いながら、どうやって話そうとぐるぐる考える。
「――用事はもう済みました?」 「え、ああうん、付き合ってくれてありがとうね雷蔵」
それまで黙っていた彼は突然口を開いて、もしよかったら次は僕に付き合ってくれませんかと、眉を困ったようにハの字にさせて微笑んだ。断る理由もないし、雷蔵には助けられたばかりなので快諾する。
「行きたいところがあるんです」
そう言うと雷蔵は、人が増えてきましたねと笑って、ごく自然にわたしの手を取って歩きだした。思ったよりずっとごつごつした無骨な手の平だった。
「はぐれるといけませんので」
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