「どうしたの?」 「いぶ鬼と今度遊ぶ約束をしてたんですが、だめになっちゃったんです」
あらーそれは確かに残念だわ。 力なく素振りをし始める金吾に、そういえばと声をかける。
「金吾はなんで素振りしてたの? 授業の一環?」 「ぼくは武家の生まれで、父上のような武士になりたいのです」 「ほおお……ぶけ……もののふ、ですか……」
武士かー。 忍者に耐性はついたけど武士とかはまだだったから、いざそういう単語を聞くと耳に慣れなさ過ぎてすごく妙な感じだわ。
「だから今は戸部先生の元で日々修行しています。戸部先生はすごいんですよ、この前だって――」
ここから金吾は目をきらきら輝かせてずっと戸部先生の武勇伝を力説していた。 憧れているんだな、本当に。
「剣の道は険しいですが、ぼくは将来、戸部新左ヱ門先生のように剣術を極めたいのです!」 「そっか! きっと金吾ならなれると思うよ!」 「ほ、ほんとですか!?」 「うん! なれる!」
だってその小さな手にはすでに、硬い手まめがいくつも出来ているのをわたしは気付いていたよ。
「頑張っている人はちゃんと報われるからさ。わたしも金吾を見習うようにする」 「ハルさんも頑張っていると思いますよ」 「そっかな」 「そうです!」
間を置いて、あははと二人は噴き出す。 久しぶりにこんな素直な会話をした気がした。
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