――鉢屋side――
「二人とも今日は本当にありがとうございました! じゃあね!!」
にこにこ屈託なく笑うものだから、まるで俺のお気に入りの一年は組のよいこたちのようだと。
「さーぶろう」 「……んだよ。にやにやすんなよ」 「お前もちゃんと謝れるんだなーエライエライ!」 「ハチ、お前次の組み手こてんぱんににしてやるからな」
さっきっからハチがにやにやとこっちを見てたのは、どうせそんな事だろうと分かってたさ! 畜生! 雷蔵の変装をしていてよかった。皮膚が熱いから、きっと俺も立花みたく顔が赤くなってるだろう。 立花といえば、彼とあの人の間に飛び交った『風呂場』と『あの時』という単語が気になるが、それはまあ後から情報収集するとして。
(あの、なんで雷蔵の振りをしてたんですか?)
言えるわけない。 俺は鉢屋三郎だと言ったら、きっと出会った時の悪印象が邪魔をすると思ったから、そのまま雷蔵の振りをしていたなぞ。 ただ俺は、さっきみたいな笑顔が見たかっただけだ。なんて、存外女々しいな。悔しい。
(それにしても……)
まさか、あの夜の事を微かでも覚えていたなんて。しかも夜の中だったから声だけなのに、俺だと気付くなんて。 なんていうか。
「……嬉しい、のか……?」 「ん? なんだって?」 「ハチに言ってない」 「ひでー!」
ともかく、これで臆する事なくあの人に話し掛けられるということだな。
「……三郎、お前さっきっから変だぞ」 「ふふん。なんでもないさ」 (また雷蔵の顔で悪い顔してやがる……)
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