彼の話を一通り聞くと、思わずごちてしまった。
「じゃあきっと、大変な事もたくさんあるんでしょう」
それは斉藤に言ったのか、これからの自分自身に言ったのか、はっきりとはわからなかった。 彼は黙ったまま何気なくわたしの手を握ると、ふんわり笑った。
「うん。でも楽しい事もたくさんあるんだよ。だから、きっと頑張れるよ」
見抜かれていた。恥ずかしい。 やっぱり四年にもなると隠し事なんて出来ないんだろうなあ。
「斉藤さん、」 「タカ丸でいいよ〜」 「あ、えっと、タカ丸くん、」
ありがとうございます。 何とか彼の目を真っすぐ見て言えた。 背中を押してくれた訳じゃないだろうけど、でも確実に心が軽くなったよ。 それはきっと彼が、この学園に一から染まっている人じゃなかったから、よりほっと出来たんだと思う。
「何か辛い事があったら、僕も君に言うから、君も僕に言おう。お互い頑張ろうね」 「はいっ」 「ふふ。……それより、そろそろランチの時間になるよ? お仕事大丈夫?」
……はっ! そうだよ! 癒されている場合ではないよ!
わたしの膝で寝息を立てるキハチローを起こさないよう、ゆっくりと下ろす。 ひい、足が少し痺れてるけど何とか立ち上がって、食堂の方面へと向かう間際、タカ丸さんに呼び止められて振り返る。
「今度、君の髪を手入れさせてくれる?」 「よろこんで! それじゃまた!」
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