鳥がさえずり、暖かい日差しが降り注ぐ。窓を開ければ春の風に運ばれてほんのりとアカシアの花の匂いが辺りを包む。こんなに長閑な朝は久しぶりかもしれない。
二人分の朝食を用意し、未だ眠りの中であろう彼を起こしに寝室へ向かう。
珍しく深く眠っている彼の横に腰を掛け、乱れた前髪をすかし、額にキスをする。
「おはようございます、クラサメさん。朝ですよ。朝食出来てますから先にリビングで‥」
待ってますね、そう言おうとした瞬間、腕を掴まれそのままグッとベッドへ引き込まれる。
あっ、と声を出した時には既に彼の腕の中で、目の前には少し意地悪そうに笑うクラサメさんが「おはよう」と私の瞼にキスを落とす。
「もう、起きてたんですね。」
「ゼロのキスで起きた。さながら童話に出てくる姫というのはこんな気持ちなのだろうな」
「それじゃあ、私が王子様ですか?」
そう返すとクラサメさんは一瞬きょとんとし、次には苦笑しながら私の頬を撫でる。
「そういう事ではなく、キスで目覚める朝も悪くない、とな」
普段あまり見せることのない彼の穏やかな表情に、今日が永遠に続けばと思う。平穏な毎日、可愛い子供が出来て慌ただしくも幸せな日常。そんな将来を馳せていると彼と目が合い、どちらともなく唇を重ねる。
「ゼロ、愛している。」
「私も愛しています。」
再び重ねられた唇、握られた手の温もりに今の幸せを噛み締め、訪れた微睡みに私は身を預けた。