任務のない、穏やかな休日。
ポカポカしたテラスにマキナと寄り添って、空を見上げる。
空から目を落とし広がる大地。その向こうにはたくさんの町がある。
人と人がそこで生活している。私たちが守らなきゃいけない命が溢れている。

「マキナ」
「ん、どうした?」
「デート、しよっか」

そう言えば、マキナはふっと私の好きな笑みを浮かべ頷いた。

それから私たちは魔導院を出る。マキナはどこからか一匹の黄色チョコボを連れてきた。

「チョコボだ」

私がチョコボの首に抱き着けばクエェ!と鳴いた。

「チチリって言うんだ」
「チチリ?変な名前だね」

するとマキナは不機嫌そうな顔をする。

「良いんだよ。なんか懐かしい響きがするんだ」
「ふーん」

気のない返事を一つした。

「この子、マキナのなんだ」
「ああ、この前2組の皆から貰った。0組昇進祝いだってさ」
「2組って仲良しだよね」
「そうでもないよ。モーグリが世話好きなだけだよ」
「確かに、この前もマキナのこと心配してたよ」
「ホント心配性だな。でもなんか、嬉しいよな」

穏やかな笑みを浮かべるマキナに私もなんだか嬉しくなった。

「そろそろ、行こっか」
「そうだな」

最初にマキナがチチリに乗って、私に手を差し延べる。彼の手をとりその後ろに乗った。

「二人で乗って平気なの?」
「こいつ、結構タフなんだ。この前も任務で重いものと一緒に乗ったんだけど大丈夫だったし」
「何それ、遠回しに喧嘩売ってるの?」

マキナは別にそんなつもりはなかったのだろう。しまったと言った顔をして黙りこんだ。
チチリが動き出す。
チョコボ特有の揺れで落ちるんじゃないかと恐くなり、マキナの背中にぎゅっとくっつくと、マキナの耳は赤くなっていく。
それに気付いたとき私にはもう恐怖はなくなっていて、くすりと笑った。

「ゼロ、どこ行きたい?」

急に話し出すマキナ。照れ隠しなのがバレバレだ。

「イスカ」

この前皇国から奪還したばかりの町の名を言う、するとマキナははあとため息をつく。
詰まらない、照れマキナはもうそこにはいないのか。

「だったら早く言えば良いのに。飛行船で行くほうが早いだろ」
「マキナはわかってないなあ」

今度は私がため息をつく番だった。

「チョコボだからこんなに近くにいれるんだよ。飛行船だったら真っ赤なマキナも見れなかったし」

マキナはまた、顔を赤くした。

「マキナ、照れてるの?かわいー」
「うっさい!かわいいって言うな!」

端から見たらとんだバカップルだろう。
心なしか、チチリが呆れているように見える。
それでも、幸せなひと時だ。
気づけば早いもので、トゴレスの地を越え、イスカの町に着いた。
入口にチチリを繋ぎ、どちらからともなく手を繋いでイスカへと入っていった。
町では至るところで復興作業が成されていた。
流石イスカと言ったところだろうか、元から大きな町だったため作業が早い。町の人も大人から子供まで全員が作業をしていた。
マキナと顔を見合わせ、私たちもその輪の中へと入っていく。
その中で私は一人の女性と出会った。
彼女は背中に赤子をしょい、大きな荷物を運んでいた。
あまりにも大変そうだったので手伝うと言えば、彼女は一度荷物を降ろし、この子を預かっていてくれないかと言う。
自分たちの町だからなるべく自分の力でやりたいんだ、と言われればもう何も言うことはできなかった。
私の腕の中にいる赤ちゃんはニコニコと絶えず笑っていた。
自然と私も笑顔になる。心が温かくなった。
赤子はぐずることもなかったので、私は片手でも出来る怪我人の治療を行った。魔法を使える人間はいなかったようで、大分感謝された。
しばらくすると休憩時間になった。
せっせと働いていたマキナは私の元へ来ると、赤ちゃんを見て驚いた。

「かわいいでしょ」
「ああ、どうしたんだ?」
「私の子」

軽く冗談を言って返せば、マキナは顔を赤くして私を小突いた。
マキナは最近顔を赤くする。まあ私がわざとやってるのだけれど。
すると、ずっとおとなしかった赤子が泣き出した。
私もマキナもどうして良いかわからなくて慌てるばかり。
それに気付いた周りの人が赤子の母親を連れて来てくれた。
彼女は私と目が合うとにこりと笑って、ありがとうと一言言って赤子を抱き寄せる。
彼女は子守唄を歌う。
エースがよく歌っている、あの穏やかな唄と同じものだった。
赤ちゃんは微笑み、すやすやと眠りについた。

「ごめんなさいね、迷惑かけて」
「いえ、こちらこそすみません。泣かせちゃって」
「良いのよ。いつものことよ」

なんて笑い飛ばす彼女は逞しかった。
二十二、三だろうか、私たちとそんなに大差ない彼女は一児の娘を持つ、立派な母親なのだ。

「この子、名前なんて言うんですか?」
「エピルスよ」

エピルス…希望を意味する。良い名だと思った。

「素敵な名前ですね」

隣でマキナが言った。私もそれに頷く。

「夫が付けた名前なの。多分、だけれど」

少し元気のない笑顔、それだけでその曖昧な理由を悟るには充分だった。

「そうなんですか」

深く聞いてはいけない。マキナも神妙な顔つきで黙っていた。
マキナは優しすぎるからきっと全部自分の責任だと感じている。
大丈夫、マキナのせいじゃないよって伝えたくて、彼の手をそっと握った。
伝わったのだろうか、ぎゅっと握り返してくれた。
それに気付いたのかどうなのか、エピルスの母は口を開く。

「あなたたち、恋人同士なのね」

私たちは同時に顔を赤くした。

「若いって良いわね」

彼女は笑った。そしていつの間に起きたのか、エピルスがうーっと返事をした。

「私にはもう、この子しか希望はないわ。でもあなたたちはたくさんの希望を見出だせる。精一杯今を生きてちょうだい」

彼女はもう、それ以上何も言わなかった。
終始エピルスはニコニコしていた。

「ゼロ、そろそろ帰ろう」
「うん、そうだね」

親子に別れを告げると私たちはイスカの町を後にした。

帰路、チチリに揺られ魔導院へと向かう。

「赤ちゃん、かわいかったね」
「ああ、そうだな」
「私も、赤ちゃんほしいな」

するとマキナは壮大に咳込む。
うん、予想通りの反応。

「からかうなよ…」
「からかってなんかないよ。私はいつも本気」

そう言えば、マキナは急に真剣な顔になった。その表情ぬドキッとする。

「この戦いが終わったら、」
「うん」
「朱雀に平和が訪れたら、二人で小さな町に住もう」
「うん」
「それで、0組の皆もよんで、小さいけどあたたかい結婚式を挙げたい」
「うん」
「しばらく二人きりで暮らして、ゆくゆくは幸せな家庭を作ろう」
「うん」
「…意味、わかってるのか?」

うんうん言い過ぎただろうか、怪訝そうな顔をして聞いてくる。それさえも愛おしい。

「私ね、今とっても幸せなの。マキナが居て0組っていう仲間たちに囲まれて」
「うん」
「でも、マキナの言う未来なら、もっと、もっと幸せだと思う」
「ゼロ…」
「マキナ、だから今頑張ろう。皆と一緒に生き抜くの」
「そうだな」

マキナと二人ならなんでも乗り越えることができるような気がする。
二人で幸せな未来を作ろう。
希望の光を二人で捕まえるんだ。



エピルスの光



ねえ、マキナ
ん?
子供の名前は私が付けるからね、マキナは付けちゃだめ
なんでだよ
変な名前付けられたら子供が恥かくでしょ?
ゼロっ!



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愛だけはたくさん詰まってるつもりです!
零式発売一ヶ月!おめでとう!

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