Apologize(2)-覇淮


 幸せになりなさい。


「貴方が望む幸せが此処には無いというのなら、――行きなさい」
 頭を包み込むように回された細い腕、抱かれたその優しさに今度こそ足下が崩れ落ちるような錯覚を覚えて痩せた体に縋りつきながら声をあげて泣いた。 
 但し、その時が来たらわたくしはこの国の為に、魏の将として躊躇いなく貴方を討ちます。
 だから御自分の身を守れるように強くなりなさい。そう己の髪を撫でながら宥めるような声を紡ぐ郭淮の声も少しだけ上擦っていた事にその時の自分は気付く事は出来なかった。



 数日後、生まれ育った国を捨てて、新しい世界に出て行く己の手にはまだ形に成らない自由だけが残った。
 あれ程まで己を苦しめ足枷のように引き摺り回した影を、掬い上げ掻き消してくれた月の光とは もう逢えなくなる。

fin

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