▲before day(3) -覇淮


「…乗れよ、慣れてんだろ?」
泣きたくなる程に懐かしい、色褪せた思い出を振り払うように後頭部に添えられた郭淮の手首を乱暴に捻り上げ息が掛かる程に距離を詰めて低く嘲笑った。
これはあの人じゃない。
動きを封じていた蜉蝣を解放してやると、彼は緩慢な動作で上体を起こし自らを貫く熱い蜘蛛の牙に口付けを落とした。
最も敏感な部分が郭淮の口内に含まれ熱い粘膜で包み込まれる感覚に背筋がぶるりと震える。
猫の子が餌を舐め食むように幾度も舌を絡ませては離し、硬さと大きさを増していく熱塊を愛しげに愛撫する淫らな姿は普段の彼が纏う印象とあまりにも違い過ぎて、
その落差に酷く驚かされたがすぐに下肢から齎される快楽の波に己の思考回路は呆気無く焼き切れた。

だんだんと含み切れなくなる大きな其れを愛撫しながら、口唇と反り返った茎の間から零れ落ちた透明な体液を指先に絡ませ、それを自分の一番深い場所を性器に変える為の潤滑剤に使い中を抉る…。
手馴れてるんだな、と全てを郭淮に任せ大の字に寝そべったまま鼻で笑えば、視線も涙も、俯いた郭淮の全てを覆い隠す長い髪が僅かに震えた。
充分に硬く勃ち上がった雄から郭淮が口唇を離し、片手を添えて体内にその欲を迎え入れる。触れあった場所がみちみちと隙間無く相手に呑み込まれていく感触に思わず声が上擦った。


「……っ」
直ぐにでも放ってしまいそうな強烈な快楽の波に襲われ、腹に息を吸い込み丹田にグッと力を籠める事で何とか持ち堪える。
大きく脚を広げて腰を跨いでいる郭淮も自身の身体を強く抱き締めて、半分程呑み込んだものの最後まで収めきれない、接合部を引き攣らせる圧迫感に白い首筋を反らせていた。
自分で慣らした場所で受け入れるのには目測を誤ったのか。
苦痛を耐える様子に、過去に彼の身体を抱いた己の知らない男に対してつまらない優越感を感じそんな自分に失笑した。
「自分で動けよ、郭淮」
腹を覆うしなやかな筋肉の上で震えている小さな尻を急かすように叩き、下から腰を突き上げ半ばまで郭淮の胎内に収まった熱を動かす。
「ひっ…ぁ」
濡れた音をたてて肉壁を掻き分け無理矢理潜り込もうとする陰茎に揺さ振られ、支えを求めて夏侯覇の胸の上に郭淮の身体が倒れ込んだ。
腹の奥を食い破らんばかりに暴れまわる蜘蛛の牙に呼吸を妨げられ、ハッハッ、と犬畜生のように荒く息を吐き肩を揺らす漆黒の蜉蝣をきつく抱き締め耳元で囁く。


「なあ、俺がしてやるからさ…俺以外の男と寝るなよ」
誰でも良かった、というお前の言葉を信じるのならば相手が俺であっても構わない筈だ。そう告げながら熱く昂った楔を幾度も獲物に打ち込む。
「誰にも、誰にもお前を渡さない、これからずっと…な、郭淮」
熱病に侵されたように無我夢中でその身体を貪り続ける俺を、彼はとうとうその夜 一度も瞳に映してくれる事は無かった。






寝台の上に流れる長い髪を、指先で掬いあげ恭しく口付けを落とす。
閉じられた郭淮の瞳の縁から零れ落ちた涙の意味は分からないまま、壊れても打ち捨てる事の出来ない傀儡を愛でる稚児のように意識を手放してしまった彼をいつまでも抱き締めていた。
今は、郭淮の心を雁字搦めにしている誰かの代わりでも構わない。しかし何れはその瞳を開かせて、己を認めさせてみせる。
「なぁ、俺を見てよ…」

永遠に明けない夜を望む事なんて、許さない。

The darkest hour is just before dawn.


fin

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