▲before day(2) -覇淮


染み込んだ汗以上に重く感じられる薄衣を脱ぎ捨て、郭淮の薄平らな胸を夢中で掻き抱き互いを遮るものが何も無い状態で昂った熱を共有する。
磔にされた蟲のように郭淮は僅かな身じろぎを時折返してくるだけで、性急に施される拙い愛撫を静かに受け入れている。
拒む言葉も無いが、この行為に悦びを感じている訳でもないらしい。
荒れ狂う大河を鎮める為その身を捧げられることが運命付けられている生娘のような、殉教者のような虚ろな瞳で 彼ははじめから何も見ていなかった。
……ひどく滑稽だ、と小さく舌打ちをする。こんなのは望んじゃいない、一方的に奪うばかりの性交にするつもりはない。
身体の彼方此方を厄介な病に食い荒されている癖に、痛々しいまでに清廉潔白なこの男がその内に巧妙に隠しているものを、最奥を暴いて本能の儘に欲を貪る姿を見てみたいのだから。

高い天井を見詰めたまま焦点の定まらない瞳で熱い吐息を吐きだす郭淮の顎を鷲掴み、その耳元に低い声で囁きを落とした。
「なあ、抵抗しないの?」
今ならまだ止められるんだけど?という逃げ道を言外に含ませ、舌先でなだらかな胸の先端を突いては吸い上げ甘噛みを繰り返す。
唾液に塗れ勃ち上がった乳首を執拗に責め続けると、微かな呼吸音だけが零れていた郭淮の口元から吐息以外の掠れた声が溜息と共に吐き出された。
「…抗って欲しいのですか」
相変わらず情の一切を取り払ったような声。刹那、胸から与えられる快感を従順に受け入れていた痩身がビクンと大きく仰け反った。
郭淮の挑発にカッとなった夏侯覇が胸の尖りに強く噛み付き思い切り捻り上げたからだ。


「そっちがその気なら、俺も手加減無しだぜ」
歯型が付くほど強く噛み付いた胸に再びねとりと舌を這わせ、腕の中にあっても決して自分の思い通りにならない身体を本気で崩しにかかる。
反らされた喉を追い掛けて強く噛み付き、血肉を啜る獣が獲物の喉元に牙を突き立て脈動の根を断ち切るように手荒に組み伏せた。
それでも押し黙った儘何を考えているか分からない彼の背に片腕を差し入れ、肉付きの薄い背を指先で辿りながら下方へと降ろし、柔らかい双丘の間へと指先を潜ませる。
他者の指先が肉体の一番深い場所へ続く密やかな入口を探り当てようとする動きに、流石に郭淮の身体が強張り、はじめて苦痛を滲ませた小さな呻き声が零れた。
引き攣る郭淮の内股の間に膝を割り入れ、脚を閉じる事を許さずに彼の後孔をゆっくりと嬲り続ける。
湿りの無い熱く狭い場所に指を節二つ分まで強引に潜り込ませ、ナカを滅茶苦茶に掻き回して一気に引き抜くときつく目を閉じた郭淮の眉間に深い皺が刻まれる。
「くっ……!」
痛みに耐えるように歯を食い縛り、くぐもった声を漏らす郭淮の額に口唇を落とし今度は指の根元までぐちりと一息に押し込んだ。
「っぁあああ」
壊れた人形のようにガクリと頤を後方へと反らし、黒翅の蜉蝣が餓えた蜘蛛の背中に強く爪を喰い込ませる。
自身に苦痛と快楽を与える相手に縋りながら、郭淮は暫く忘れていたその感覚に悲鳴をあげ身を震わせた。


―もっと、奥まで
招き入れているのは、わたくし。
濡れた音をたてて下肢の奥を弄る青年の腕を逃がさないように太腿の内側で捕らえ、両腕は小さな頭を抱込みサラサラと流れる綺麗な栗色の髪を指先で掻き乱しながら。
―偽りの、奥まで
「…っ、挿れるのでしたらどうぞ、早く…」
夏侯覇の指を咥え込んだ場所に自らの手指を添え、いつかのように より熱い欲望を受け入れる為に割り広げて誘う。そして捕食者が歪んだ笑みを見せた。
―愛して。
捕らわれたのは、どちらのほうか。


熱く蕩けた身体の最奥で自分と相手のものと、根元まで呑み込んだ対の指が滑った音を立てて絡み合う、
深く、浅く、身体の熱を指先で感じれば体内で擦れるもう一本の指が口付けで触れ合う舌の様に絡んでは離れ、淫猥な音をたてて外気に晒さる。
郭淮の脚の狭間に差し込んだ腕は無意識なのだろうか、引き抜く事は許さないと言わんばかりに細い腿にしっかりと挟まれていた。
そこから若干の戦慄きを感じたが、痛みからではなく恐らく体内を探り擦られる強烈な感覚に悦びを感じての事だろう、と思う。
声を殺す事なく抉る指の動きに合わせて切なげな嬌声を響かせ、普段表情の変化に乏しい作りもののような貌のそこかしこに汗を滲ませている嬌態。
解放する先が見つからず、籠った熱を持て余すように大きく首を振り背を反らせる郭淮の鎖骨に引き寄せられるように歯を立て心の奥底から沸々と湧きあがってくる得体の知れない獣のなりをした感情に舌打ちをした。


記憶の中に棲む、幼い日の自分の手を取り綺麗な貌で微笑みかける郭淮に未だ惑わされている未熟な精神。
俺は、あの人を汚しているわけじゃない。
違うと心の中で何度打ち消しても、腕の中で仰け反る肢体に口唇を這わせれば己の雄が熱を孕み、収まる鞘を求めて硬く反り返る。
記憶の中の優しい面影はもう、朧気に霞んでさえいるというのに。


そんなにも俺は飢えてたの?と自嘲するほど、精神だけ置き去りにして猛る身体を持て余しながら、繋ぎ止められた蜉蝣の白い肩口に頬を寄せる。
「なぁ、誰に抱かれたの?」
答えは返ってこないと分かっていながら尋ねると、蜉蝣は薄翅を震わせるように腕を広げ、子を愛しむ優しさで夏侯覇の髪を指先で梳いた。
「……あなたの、知らないひとです」
郭淮の細い指先が柔らかな髪を絡め取り何度も繰り返し梳く様は、幼い頃同じように頭を撫でてくれた掌の温かさを思い起こさせ余計に胸をぎちぎちと締め付ける。

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