▲before day(1) -覇淮


※以下の文章は
・メインの覇淮以外に、肉体関係有の淵×淮的表現も含まれます
苦手要素がある方はどうぞここでお引き返し下さいm(__)m















勝敗をつけない忘憂の遊戯
互いの心を巧妙に隠しながら一番深い部分を探り合い、騙し合い、それでも求めあう。
決着がつけば全てを失う虚ろな駆け引きに、俺と貴方は何時まで迷っていられるのだろう。



戦が読み通りに行かなければ、水も気候も慣れない異郷の土地に幾月も縛り付けられるのは常である。
しかし幾度そのような状況におかれても決して慣れるという事は無い。
常に命の危険に晒されている場所で、何時訪れるかも分からない好機を息を潜めじっと待ち続ける…そのような異状に慣れてしまうなど、其れ即ち自らの死を招くような大きな油断に簡単に繋がってしまうからだ。
それでも時と共に「それ」はじわじわと削り取られていき、見通しの悪い暗闇の中、誰もが皆平静を装いながらも多かれ少なかれ疲弊している事は、陣全体に纏わり付いた流れの途絶えた沼の如く淀んだ空気からも容易に感じられた。
一体何時になれば戦況は動くのかと。
不満が溜まり、苛立ちが募れば当然判断力も鈍る。強靭な精神力を持つ軍の将といえど露呈するか、しないかは別としてそれは同じ事。
だから、とそこまで記憶の抽斗を開き、郭淮は己に都合よく畳み整えられた過去の自分自身の言い訳にふと嘲りの笑みを浮かべた。
…だから、軍議が終わった後で幕舎に戻るあの方の後ろ姿に、―恋焦れて止まない広い背に、意を決して声を掛けた。「どうかわたくしを御使い下さい」と。
特別な感情を拗らせ持て余した末の一種の賭けのようなそれは予想通り聞き入れられる事はなく、馬鹿言うんじゃねぇやと一笑に付され二度目、三度目も矢張り結果は同じだった。
そして膠着は続きはじめの誘いから数カ月の後、六度目の誘いを口にした宵、珍しく深酒した夏侯淵に息が詰まる程の強さで抱き締められ其の儘冷たい寝台へと沈められた時には
是は彼に焦がれる余り見た身勝手な夢ではないかと思った程だ。

女のように濡れない場所を、彼を迎え入れる為己の指でぐずぐずに蕩かし、彼の立派な体躯を挟み込めるよう両脚を筋がおかしくなるまで割り開いた。

……どうか、目を閉じて下さい。
そして将軍が本当に好いている御方を想いながら此処を御使い下さいと郭淮は自分を組み敷く男の頬に手を当て、そう言った。
薄い口唇を血が滲む程に噛み締め、痛みにもその奥に潜む僅かな悦楽にも呻き声一つ上げず、
その行為の間中情人でも部下でもなくただの”処理の為の肉洞”であることに徹したのだ。
躊躇うように触れてくる指に、気がつけば痕が付くほどきつく掴まれていた。声の無い褥で虚飾を脱ぎ去った身体は僅かに感じる恐怖を捩じ伏せて感情と衝動の儘に彼を受け入れた。
夏侯淵はとうとう、夜が明けるまで一度も同衾の相手を…郭淮を、見る事は無かった。
それでも心の底から彼の人に酔い痴れていた当時の自分にとっては、どんなに歪な交わりでも幸せだった。





夜の闇をそのまま身に纏わせたような郭淮の黒い外套は、低い机の上に無造作に放り投げられ、己が身に纏っていたものも全て寝台の下に脱ぎ散らかしたまま。
とうの昔にこの世を去った父親が知れば肩を竦め呆れ果てるに違いない、いや、この光景を目にすれば幾ら温厚な父さんでも怒号が飛ぶかもしれないな、と。
度ばかりが強い混ぜ物だらけの安酒で脳を無理矢理痺れさせ、本能に忠実に昂る欲望を同性の身体を貪る事で霧散させるこんな浅ましい息子の姿を。

郭淮の細い腰を片手で抱き寄せ、烏の嘴よりも艶やかな薄衣の下に手を潜り込ませると予想通り僅かな抵抗と、―おやめ下さい、小さな子供に言い聞かせるような囁きが零れ落ちた。
自分だって彼を犯す事により得られるであろう僅かな時間の快楽と、彼を永遠に失う事とを秤にかけるほど馬鹿ではない。
激しく抵抗されれば勿論行為を止め何事もなかったように、酒に惑わされただけの悪戯という事でこの場を収めるつもりだった。
だから抗え郭淮、手遅れになる前に。声には出さず、口唇の動きだけでそう呟き祈るように瞳を閉じた。
蜘蛛の巣に絡め取られた薄い透明な翅を持つ肢体を味わう為に邪魔なものは理性と共に全て取り払い、腕の中の漆黒の蜉蝣に密やかな夜の始まりを告げる口付けを落とした。


―夏侯覇の腕に抱かれながら郭淮はゆうるりと瞳を伏せる。
―嘗て愛した男、その息子の瞳に捕らわれ先に目が離せなくなったのは自分の方なのだ。
―最期まで手に入らなかった物を、穢れを知らない若い肉体に求めるなどあってはならない事。自分は一度赦されない罪を犯している、だから二度と優しい朽葉色の瞳に過ちを繰り返さないよう、後戻りできなくなる前に己の目を塞ぐことを決めた。


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