▲phantom(1) -覇淮


 辛い、と吐き出せない言葉のかわりのように。
 痩せた身体から剥ぎ取った着物の上に投げ出された青白い指先が時折、く、と引き攣りその雪地の布を握り締める様を横目に見ながら、組み敷いた身体に何度も何度も口唇を落としていく。
 本気で力を籠めれば容易く圧し折れてしまいそうな細い首の付け根から浮いた鎖骨を巡り、敏感な脇を掠めて薄い胸に色付く小さな尖りを柔かく食む。
「ん……」
 舌先で押し潰しながら乳飲み子のように水音を立てて吸い上げると、珊瑚色に染まった小さな尖りがかたく張り
 そのまま歯で軽く扱いてやればひぃ、と、啜り泣くような、悲鳴とも嬌声ともつかない声が郭淮の口唇から毀れ落ちる。
 色気が無いなと笑えばその様なものをお求めならば然るべき場所へ行けばよいでしょうとそっぽを向かれてしまった。

「悪かったって、機嫌直してくれよ」
「ん……あ、……そ…な、所ばかり…」
 圧し掛かる己から逃れようと顔の前で細腕を交叉させる郭淮を見下ろし、先程の失言を詫びるように頬に軽く接吻を落とす。
 濡れた音を立てて降る口付けの雨を受けて擽ったそうに身を捩る彼が本気で怒っている訳ではない事を確かめると、乾いた口唇を再び深く貪りながら片手を下方に忍ばせた。
 長い愛撫を施しながら緊張を解き解すように其処彼処に触れた身体は心地よい熱を孕み、薄桃色に上気したその皮膚の下に己を誘う甘く蕩ける蜜を湛えているような錯覚を覚え堪らず舌舐め擦りをする。
 肌理の細かい白磁の肌に指を這わせ内股を焦らすようにゆるゆると辿り、すらりと伸びた脚の付け根に掌が触れるとビクン、と喉笛を噛まれた兎のように郭淮の身体が強張るのが分かった。
 頭を擡げ始めた其処を包み込むように愛撫しながら郭淮の顔を覗き込むと、どう反応を返したら良いものか分からない、といった表情で心許無さげに眉を顰めて見せる。
 それでも確かに快楽は感じているらしく、良いか?と笑いかけてやればまたぷいと顔を背けた。

「な、郭淮…顔、見せて」
 紅く染まった耳朶を口唇に挟んでやわりと噛めばそれだけで艶やかな嬌声を零す癖に、一向に此方を向こうとはしない。こういう時に決まって意地を張る、何とも往生際の悪い事だ。
 反らされた頤を口唇で辿りながら、彼の意識を口付けと指の動きで逸らし目的の場所を弄る。
 今まで脚の間を割り下肢を弄っていた俺の掌が双丘に廻ると、また大きく郭淮の痩身が打ち震えた。
 何時まで経っても慣れる事のない初々しい反応が、己に自分よりもずっと年上の男を可愛い、と思わせている事に恐らく彼は気付いていないのだろう。
 大袈裟な迄に怯える華奢な身体を片腕でしっかりと抱き留め、逃げ道を塞いでから双丘の隙間を指で辿っていく。
 柔らかい隙間を掻き分け小さな蕾の周りを乾いた指先でなぞると、郭淮がヒュウと喉を鳴らし上擦った声をあげ反射的に腰を引こうとする。
「おっと…逃がさないぜ」
 自らも目にした事が無い…碌に触れた事もないような場所を同意の上とはいえ他者に触れられる事に嫌悪感が湧かない訳が無いだろう。
 
「郭淮…」
 きつく瞳を閉じておこりがついたように震える身体に、心の中で詫びながらその狭い孔に指を捻じ込んだ。
 少しだけ押し込んでみると入口が異物を拒むようにぐっと窄まり、その動きが郭淮に耐え難い苦痛を齎すらしく彼は腕の中で大きく仰け反り掠れた悲鳴を上げた。
「あぁぁあッ……!痛、痛ぁ……うく……やめ…下さ……ッ」
「悪ぃ、もう少しだけ我慢してくれよな」
 髪を振り乱しながら無意識に許しを乞う姿に胸が痛んだが、此処で止めればこの後に続く行為で余計に彼の身体を傷つけてしまうかもしれない、それだけは何としてでも避けたかった。

 指で充分にやわらかく慣らしておかなければ、到底この狭い場所が己の陽根を受け入れられるとは思えない。
 喉の奥から無理矢理絞り出されるような嗄れた悲鳴に口唇を噛み締めながら、己は郭淮の腹の中に突き入れた指をゆっくりと動かした。
 軽く内部に押し入り、敏感な粘膜で守られた内壁を探るように何度か擦り上げ時折奥まで突いては戻す。それを郭淮の呼吸が追い付いてくるまで辛抱強く繰り返す。
 身体の中で指が動かされる度に咳込み、裏返った悲鳴をあげていた彼も、己の指が二本から三本に増やされる頃にはくたりと寝台に沈み込んで
指の動きに合わせて細やかな甘い吐息を漏らすようになっていた。

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