騎乗位(ヲルヘン)2/5


「それで、さっそく協力してほしいんだウォルター」
 子犬のような目で上目遣いに見上げられ、きゅ、と手まで握られてどうして断れようか。
「君の協力無しには出来そうにないんだ、君だけが頼りなんだよ」
 嗚呼、ダメ押しまで来た。
 誤情報に踊らされるヘンリーを止めることができないなら、いっそ共に誤った道と分かっていながら突っ走って堕ちてみるのも一興か。
「まずは1121周クリアが前提らしいから一緒に頑張ろうな、ウォルター」
 しっかりと私の腕を握りながら瞳を輝かせるヘンリーに、流石にこれは既に祈るべき神もいない私だがoh my …の呟きが自然と引き攣った口元から零れ落ちた。



――数週間後、悪夢の21の秘蹟1121ターンを終え、私の殺した人数ものべ22980人をこえてしまった。
 我が国では懲役1万年の判決をくらった犯罪者が実際に存在するが私が法に裁かれた場合、軽くその記録を更新することになるのだろう。
 神に背いた悪魔の儀式を無慈悲に遂行した自分でも、こうして具体的に数字に変換されてしまうと何だか居心地が悪いことは確かだ。
 げっそりとやつれきった私とは反対にヘンリーは生き生きとして、さあ仕上げだと私の手を引いて寝室へ連れて行こうとする。仕上げ?一体なんのことだと眉を顰める私にヘンリーはここからが本番なんだと
例の雑誌、諸悪の根源をぺらぺらと捲ってみせた。
「通常でも私の行動の殆どが最終的に点数に換算されていることは君も良く知っている事だとはおもうが」
 ああ、九十何点以上とれば何やら、とかのあれか。
 よくは知らないが何度穴を潜り抜けたか、異形の化物をどれだけ始末したかなど、この世界を創りだした私ですら正体が掴めない大きな力が、ヘンリーの見る次の悪夢に大きな影響を与える数字を刻んでいる事は把握している。
 私には聖母以外敬うに値する者など無いが、もし機械仕掛けの神とやらが存在するのならばそういう無粋な事をするのも頷ける事だ。
 まぁ自分には直接関係が無い為余り気にしたことなどない。それがどうしたのだ?と問う私に、おもむろにずい、と彼が顔を寄せ、ここからが点数制なのだ、と物凄く真面目な顔で口を開いた。
 まさか、こんな場所で私と戦う気か?あまりの真剣な空気に思わず一歩後ずさろうとするが、一瞬早く血塗れのコートにかけられたヘンリーの手がそれを許さなかった。
「……私がウォルターのコートを脱がせれば+10点」
 そう紡がれた小さな声のすぐ後で、私のコートは前止めを全て吹っ飛ばす勢いで大きく左右に広げられた。余りの展開に思わずギャー、と悲鳴をあげてしまったがこれは由々しき事態である。
 正体不明の雑誌、甘く見ていたが「聖母の降臨 21の秘跡」よりも余程洗脳度が高い厄介なものではないか。狼狽し目をまるくする私に構わずヘンリーは手際良くコートを剥ぎ取り丁寧に畳んで傍らに置いていく。
「あれ…?ここからは袋綴じになっているな、ちょっと待っていてくれウォルター」
 なんだその安っぽいつくりの本は…それよりも着なれた一張羅が無いと寒いのだが、鼻水を啜りながら待つ私の目の前で、袋綴じ部分を丁寧に切り離したヘンリーの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「え……これは…参ったな…」
 私を調理前のターキーのように剥いておいて何が参っただ。不機嫌を露に後ろから覗き込んでみるとヘンリーが途方に暮れたような顔で問題の個所を指さし溜息を吐いた。

「君に口で奉仕できれば+40点」
「…ちょ」
 彼の口での奉仕……所謂フェラチオと呼ばれる物。
 騙されていることが分かっているとはいえ私にとっては魅力的すぎる条件なのだが、これは今まで何度土下座で頼んでも一度として頷いてくれなかった行為なのだ。
 本来ならば嫌で堪らないものを日本刀欲しさにやられるというのも、私とて良い気はしない。無理をするな、もう止めよう、そう言いかけた私の目の前で俯いていたヘンリーが赤く染まったままの顔をあげた。


「やる」
「待て、私は反対だぞ。嫌々そういう事をされてもだな…」
「君のならば、出来る。……確かにするのは死ぬほど恥ずかしいけれど、その、嫌だったわけじゃないんだ」
 私の思い切りが足りなかっただけで、君の悦ぶ事で私に出来る事ならばなんでもしてやりたいと思っているんだ…君が嫌じゃなければやらせてくれないだろうか。そう口籠りながらぼそぼそと言葉を続けるヘンリーは
浅ましい私の夢が生み出した妄想の産物ではないだろうか。いつの間にか妄想の裏世界に突入しているのではないだろうか、私だけが。
 本当にこれが現実なのか俄かには信じられず自分の頬を抓る私にヘンリーは苦笑いすると、私にこれが夢ではないことを確かめさせるように、抓られて赤くなった頬に音をたてて口付けを落としてきた。

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