後背位(ヲルヘン)1/2


今更ながら寝室まで我慢するべきだった、と思う。
 しくじった、と、ぴたりとくっついたもうひとつの身体に聞こえないよう私はこっそりと舌打ちを鳴らした。
 夕食後、テレビを観ている最中に珍しくヘンリーの方から寄り添われ、ここ暫く彼の多忙を理由に禁欲を強いられていたせいかそのまま抑えがきかずソファで事に及んでしまったことを悔やんでも覆水は盆には返らない。
「あふぅ………、ん、んっ……んん」
 ソファから半分ずり落ちた状態で、背後からがっしりと押さえ込まれ犬のような姿勢をとらされることに息苦しさを感じているのか、ヘンリーが口唇を戦慄かせて切なげな声で鳴いた。
 二人の間にあいたその僅かな隙間も埋めてしまえるように、私は彼の身体を両腕で抱え込み追い詰めるように堅く勃起した下肢を押し付け、汗ばんだ項に噛み付くような接吻を落とす。
 白い首筋に舌を這わせながらヘンリーの肌蹴たシャツの隙間から掌を忍ばせぷくりと膨らんだ胸の突起を嬲ると、まだひとつ、鼓膜を心地よく刺激する高い嬌声があがった。
―――あぁ…!
「…ぁ、ウォル……、タ、も、……もうっ………やぁ」
 しまった、今の声は流石に隣に聞こえてしまったかもしれない。
 新しい建物ではない為仕方ないといえば仕方ないのだが、御世辞にも防音対策をしっかりととっているとは言い難いつくりのこの部屋である。
 薄い壁の向こうの住人は自分も彼もよく知る女性、行きずりの相手とその場限りの性交を楽しむような木賃宿とは違うのだ。これは箍が外れては色々と後が危険だとあらためて肝に銘じるが
「ふぁぁッ……!!ウォルター、ああぁ…ん」
 パートナーの方が緩慢に与え続けた快楽にすっかり理性を手放し、珍しく声を抑えることを放棄してしまっているのだから、幾ら自分だけが気をつけてもこれでは意味がないだろう。
 半ばまで脱げかかっていたジーンズを床に落とし、裸の素足を積極的に私の足に絡ませてくるヘンリーにごくりと喉が鳴る。
 こちらを煽るような真似をしてくれるなど滅多にない事だから、今更行為を中断して寝室へ移動しようと提案するのも躊躇われた…が、このままでは弁解のきかないことにもなりかねない。
 明日から隣人と顔を合わせづらくなるような状況に陥るとなるとヘンリーも困るだろう。自分の欲をぐっと抑え込んで口を開きかけたのとソレとは丁度同じタイミングだった。
「ウォルター、はやく……」
 真っ赤な顔でこちらを振り返り、はやくきてくれ、と続けられた言葉は後半聞き取れない程に小さなものだったが、濡れた口唇の動きで読み取る事が出来た。
 強請られなくても我慢の限界点などとうに超えている、私だってはやくヘンリーの中に押し入って思う存分揺さ振り、射精したくて堪らないのだ。
 最愛の人からの誘いを前にして、ズキズキと痛む程に昂ったペニスを宥め続ける事などもう不可能だった。
 私は寝室に移動することをあっさりと諦め、「分かった」と彼の耳元で熱く囁きながら後ろからヘンリーの身体を深く丁寧に貫いた。

「……あっ…!、ん、痛ぅ ……くはッ」

 初めて二人で迎えた朝、「身体が真っ二つに引き裂かれるかとおもった…」とベッドに突っ伏しながら真っ赤な顔でヘンリーがぼやいていたが、実際この行為は慣れてからも受け入れる側は相当の痛みを伴うものらしい。
 アヌスに圧し付けられ、敏感な肉壁を無理矢理掻き分けて体内に侵入してくる灼熱の塊はコレがお前の一部だと思わなければ到底受け入れられるものではないな、と、そう照れ隠しの為か腹立たしげに言っていたヘンリーに、
私は抱き締めて顔中にキスを降らせてしまう程嬉しかったのだが、真面目な話本当にコレは耐え難い感覚なのだろう。

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