対面座位(ヲルヘン)4/4




「あ…いや、そうか……」
「ん?どうしたヘンリー」 
 成る程。男の、ではなく君のだから、こんなふうになってしまうのか、と熱に浮かされぼんやりとした頭で考える。

 誰でもいい訳ではない、そもそもこの行為は心が介入しなければ虚しさだけが残る唯の暴力でしかない。
 こんなにも大胆に自分を曝け出せるのも、淫らに理性を手放せるのも、私の全てがウォルター・サリバンを受け入れることを肯定しているからなのか、と理解し、先程彼に言われた言葉がそっくり自分にも当て嵌まる事に思わず苦笑いが零れた。

「参ったなぁ……」
「どうしたんだ、ヘンリー」
「なぁ、ウォルター。どうやら私の身体も自分が思っていた以上に君の事が好きらしいんだ」
 人差し指で頬を掻きながら呟いた私の言葉に、ウォルターが全ての動きを止め、瞬きも忘れて目を丸くする。
 ああ、耳まで熟れたプラムのように真っ赤に染まってしまって……、年上の同性に褒め言葉として使える言葉ではないとは分かっているが、彼のそんな様子を「可愛らしい」と思ってしまう私は本格的にいかれてしまったようだ。
 全部くれるというならば遠慮抜きで君の全てを奪ってしまおう、そのかわりに空いた部分を隙間なく私で埋めてやる。
 彼が目下夢中なチーズクリームを挟んだビスケット菓子も、酷くセクシーな声のパーソナリティが担当している地元ラジオの深夜番組もペットショップの一番目立つ棚で毎日客寄せに貢献している子猫も、隙間に入る事を許してやらない。
 未だ呆気にとられたような顔をしているウォルターの口唇に自分から噛み付くような口付けを落とし宣戦布告のように舌を絡めてにんまりと笑った。


「随分長い時間見てきた筈なのに、あとどれだけ私を驚かせるカードを隠し持っているんだ?お前は」
「さあ?」
 内緒話をするように耳元で囁かれた言葉に小さく笑い、私は再び繋がったままの腰を動かし始める。
 両腕をウォルターの肩にかけ慎重に腰を持ち上げて彼のペニスを引き抜き、体重をかけて深く呑み込む。
 繰り返し、繰り返し透明な滴りを溢れさせながら下肢がぐちゅぐちゅと湿った音をたてるそんな素面では到底直視できない眺めにも今は興奮してしまうのだから私とてとことん俗な生き物なのだ。
「ほら…ウォルター、君のだって私の中でびくびく震えてるじゃないか。早く動きたくて堪らないんだろう?」
 おいで、可愛がってあげる。そう誘うように手を伸ばせばウォルターは恭しく私の爪の先に口付けを落とし、お前の望みのままに、と心地よく耳に響く低音で応えてくれた。
 共にのぼりつめて共に堕ちる、その夜はいつもの秘め事が何だかとても特別な儀式めいたもののように思えた。


 …そして当然翌朝は寝過して私の予定は朝から狂いっぱなしだったのだが傍らで眠る男の顔を眺めているうちにそれがとても些細なことだ、と思えてくることが可笑しくて堪らなかった。
 休む理由も無いからと学生時代何となく皆勤賞をとってしまっていた自分自身が今の私を見たら何と言うだろうか。堕落したと嘆くだろうか、それとも。 
 さて、今は遅刻の言い訳よりも、ウォルターを笑顔にさせるような朝食のメニューを考える為に覚醒したばかりの脳を使うべきだなと寝癖だらけの髪を手櫛で撫でつけながらゆっくりと身体を起こすのだった。







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