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「あ〜あ、予想外。オレ入院だってよ、この歳になって初体験。どう?G」
 どう?と話を振られても、と少しだけ困った顔を見せたドイツ人は窓から差し込む初夏の強い日差しをカーテンで遮り「大人しくしているんだな」と低い声で静かに言った。
「そうだ。消灯とか決められてんだよなぁ〜、メシも好きなもの食えないし。性生活も不自由だしぃ、可哀想じゃねえの、オレ。」
 聞こえるものといえば窓の外、風が木の葉を揺らす微かな音ばかりで、負傷した団員を収容する病棟に使われている建物の中でも『腐っても特戦部隊』と、特別扱いされた個室には廊下を歩く足音一つ聞こえてこない。
 しかし物心ついた頃から硝煙の臭いと爆音を子守唄に育ってきた自分にとってはこの心安らぐ静寂は堪らなく居心地が悪いのだ。




「そういえばマーカーから伝言だが…」
「マーカーちゃんから?!何々、オレのこと心配してた?」
 不意にGの口唇が紡いだ自分にとってかけがえのない存在、想い人の名前に痛む腰を忘れてついガバリと上体を起こしすぐに襲ってきた痛みに顔を歪める。
「……ついでにメタボも治療して貰え、だそうだ」
「………ひどい」
「……たまの休みだ、ゆっくりとすればいい」
 散々引き止めたGも仕事だからと病室をでていってしまうと、一人残された途端に静寂はその深さを増したような気がした。
 どこか世の中から自分だけ忘れ去られてしまったような、生を感じさせない白い空間と止まった時の流れが酷く心を不安にさせる。
 とはいえまともに走ったり跳ねたりも出来ない身体ではとてもではないが特戦部隊の任務は務まらない。不本意だが大人しく養生して早くあの場所に戻るのが得策と大きな欠伸を零し、久々に時間を気にせず眠ることが出来るという不幸中の幸いに甘え
浅い眠りに落ちていくのにもそう時間はかからなかった。

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