戯(ハレマカ)5


「・・・・・・ッ」
 覚悟していた激痛も、身体を貫かれることもなく・・・暫く互いに無言のまま静かにベッドサイドに置いた時計が無機質に時を刻む音だけを聞いていた。
 永遠のように感じられたそれも、時間にしてみればほんの1、2分のことだったのかもしれない。
 ギュッときつく閉じられていた瞳を、恐る恐る開いた己の視界に映ったものは・・・。
「ちったぁ懲りたか?このマセガキめ」
 穏やかな笑顔を浮かべた、己の知る彼の姿。
 汗に濡れた髪をかきあげながら、寝台の上に横たわる己の身体を抱き起こし、未だ緊張に怯え竦む額に羽根が触れるような口付けおとされ・・・そして呆気に取られたように目を丸くする己に、片眉を上げて微笑んで見せた。
「・・・ったく、ビービー泣きやがってよぉ。俺の良心が痛むじゃねぇか、この馬鹿」
 彼の良心、果たしてそれは本当に存在するものなのだろうか・・・、額を軽く小突かれながら未だ自分の置かれている状況が上手く把握出来ずに多少ずれた思考をしてしまう頭をブンブンと振り、幾分か落ち着きを取り戻してみれば泣き顔を見られることが途端に恥ずかしく思え、
涙で濡れた顔を逞しく鍛え上げられた彼の胸板に強く押し当てた。
「隊長・・・・ッ」
 鼻を啜り泣きじゃくりながら縋りつく、己の髪を優しく梳いてくれる手の温かさは確かに彼のもので。
「もう二度と娼婦の真似事なんかするんじゃねぇぞ、今度は止めてやらねぇからな」
 心地よい響きの低音に顔を伏せたまま、幾度も幾度も頷いた。


「馬鹿だな、おめーはよ・・最初っから恋人として抱いてくれ、って頼んでくれりゃ、俺だって優しくしてやったものをよぅ」
 そして続く唐突なそれに、俄かにその言葉の意味を量ることが出来ず硬直すること約1秒。
 何気ない口調で、続けられた言葉を音として認識出来た次の瞬間、弾かれたように勢い良く顔をあげみるみるうちに自分の耳が紅く染まっていく音を聞いた。
「……ッ」
 こういった場合、大人の恋人達ならばどんな言葉で愛の言葉を交わすのだろうか。
 どれ程の言葉ならば、今自分の小さな胸いっぱいに膨れ上がっているこの想いを伝えることが出来るのだろうか。
 未だ子供の自分には、分からない。
 分からない、けれども。
「・・・・・・・・・」
 主の首に両腕を廻しぴたりと裸の身体を寄せ、少しだけ煙草の匂いがする彼の口唇に自分の口唇を押し当てた。
 柔らかい感触と、温かい体温。
 伝えたいものはそれだけではなく、触れることで言葉に出来ない溢れる程の想いを直接彼におくりたいと願う、その行為はまるで神聖な儀式のようにも感じられた。


 離れてはどちらからともなく引きあい、また小さな水音をたてて離される。
 小さなキスを何度も繰り返し広い胸に抱かれる心地よさにうっとりと瞳を閉じた自分からスッと主が身体をはなす。
 温もりが消えたことに、どうやら寂しげな表情を形作ってしまったらしい。寝台から降りようとする主を見上げる己の頭に彼の手がポン、と乗せられ「そんな顔するな」と苦笑いを零されてしまった。
「便所で処理してくっから、ちっと待ってろ。眠けりゃ先に寝とけ」
 処理、という言葉が意味するものに漸く気がつき、再び熟したトマトのように顔を赤くする自分を眺めケラケラと笑いながら主は勃ちあがったままの自分の性器を突付いてみせた。
 未だ未発達の自分とは比べ物にならない程大きなそれから慌てて目を逸らし、しかしその反応を引き出したのは他でもない自分なのだ、という事実に気恥ずかしいような、嬉しいような戸惑いを覚える。
 彼が自分に対して感じてくれた、その事だけでも体内で燃え燻る熱に焼き尽くされてしまいそうだ。
「……あの…」
 こちらに背を向け、全裸のまま床に脚を下ろし寝台から立ち上がろうとしている彼を呼びとめ。
 振り向く彼に四つ這いのまま近寄り、主の性器に震える手を添え
「…ッ、おい、マーカー」
 突然のそれに面食らった隊長が止める間もなく、引き寄せられるようにパクリと口に咥えた。
 不思議なことに、今度は少しの嫌悪感も湧きあがることもなく。
 流石に小さな自分の口唇では先端を含むことが精一杯だったが、それでも少しでも多くの快楽を彼に感じて貰う為に喉の奥まで迎え入れた。
「んっ…ん……ッふぅっ…」
 満足に口を動かすことも困難な程、大きな熱塊に懸命に舌を這わせながら呼吸を妨げるそれを不器用に出し入れする。
 歯を立てぬように、細心の注意を払いながらジュプジュプと淫猥な音を立て己の口内に出入りするペニスに瞳を細めた。
「…の野郎、…」
 ぽかんと呆れ顔を見せた後で、気まずそうに斜め上に視線を廻らせ・・・やれやれと小さく溜息をつき、股間に顔を埋める己の髪を撫でる獅子に、奉仕すること、それそのものが己にとっても快楽に変化していく。

- 88 -


[*前] | [次#]
ページ:




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -