戯(ハレマカ)4


 一体、自分は主に何を求め、何を期待していたのだろうか。
 自分の小さな身体に体重をかけ、無意識に押し返そうと抗う己の腕を易々と払い除ける主に対して掠れた声で、子猫のように小さな悲鳴をあげ続ける。
 圧倒的な力の差の前に抵抗など出来る筈もなく、捕食者の牙を喉元に突き立てられた獲物の如くただ彼の為すがまま、弄ばれ、引き摺られるだけの無力な身体。
「っ・・・・、隊長・・・・・・痛ッ・・・」
 軽々と両腕を纏めて大きな掌で拘束され、磔の罪人のように頭上に繋ぎ止められてしまった。
 こちらを見下ろす主の表情は、乱れた金色の長髪に隠され、窺い見ることが叶わない。
 それが堪らない程に、恐ろしい。そう身を竦ませた刹那再び口唇を無理矢理に塞がれ呼吸すら奪われる程の激しいそれに頭を振り、きつく閉じた瞳の縁に薄らと涙を滲ませた。
 一方的に奪われるだけの交合に吐き気を伴う程の嫌悪感を覚える。自分は、彼に心ある人間としてではなく、何か物のように扱われているのではないか、そう考えるだけでぽろぽろと堪えきれない涙が頬を伝った。


「何泣いてやがんだ?オメーが望んだことじゃねぇか」
 今更になって何を、と吐き捨てるように、嘲るような口調で囁かれた言葉がとても主のものとは思えず・・・・信じられずに、涙で歪んだ視界に映る今まで見たこともないような彼から逃れようと細い肢体を竦ませた。
「テメェから自分を淫売の代わりに使ってくれって頼んどいてよ・・・」
 苛立ちを露にした口調のまま、それまで仰向けに繋ぎ止められていた身体をまるで人形を転がすように手荒にうつ伏せに返される。
 若い柳の枝のようなしなやかな両腕の骨が軋み、その痛みに顔を歪めた自分などまるで見えていないように主は下肢を覆う着衣を引き摺り下ろしていく。
「痛・・・・・ぁ・・・・」
 足首に絡まった下着をそのままに、主の手は外気に晒された己の双丘を割り広げ、自分ですら一度も触れた事のない場所を暴いていった。
「クッ・・・流石にキツすぎるな。俺の指食い千切られちまいそうだぜ」
「あああぁ・・・・、ンッ・・・や、何・・ッ」
 潤滑油もなしに乾いた其処へグッ、と押し入れられた、無骨な指が齎す耐えがたい痛みに仰け反り見開いた瞳からは新たな涙が頬を伝い、顎まで幾筋も零れ落ちた。
「ひぃっ・・・・抜い・・・て、下さい・・・・ッ、隊長・・・ッ、隊長ぉ・・・痛、あっ、あぁッ」
 哀願の言葉は果たして彼の耳に届いているのだろうか。強張る身体を強引に押し開くように、奥へ奥へと侵入する指に耐え切れず、シーツに縋りつき猫の如く柔らかなそれに爪を立てる、 もう、いやだ、こんなことは自分が望んだものではない。と言えるならどれ程楽なのだろうか。
 体内を乱暴に掻き回す指の感触に口唇を噛み耐えながら、気を抜けば零してしまいそうな無様な泣き言を無理矢理に呑み込み、荒い息を吐きながら只涙だけを静かに流し続けた。
「マーカー、入れるぜ」
 嬲られ、散々に弄ばれ、ぐたりと力が抜けた身体を、両足首を掴まれ引き寄せられる。
 大きく開かされた脚の狭間に、主の腰を挟み込み・・・絶望に歪んだ顔で、涙でぐしゃぐしゃに濡れた紅い瞳を真っ直ぐに彼に向けた。
 解された秘所に、熱く脈打つ彼のペニスが押し当てられる。
「隊長・・・・ッ」
 先程の激痛を思い出せば全身が緊張に強張り、力を抜かねば余計に痛い思いをすると頭では理解していても上手く力を抜くことが出来ずに血の滲んだ口唇をより一層強く噛み締めた。


 愛しているから、自分は主に抱かれる。
 心だけでなくこの身体も、余さず全部彼のものになる。
 そう何度も心の中で繰り返しながら、祭壇に捧げられた生贄の子羊のように瞼を伏せた。

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