ANSWER(33)
翌朝、目を醒まして見れば既に隣に愛しい人の姿は無く、自分ひとりが乱れた寝台に大の字に転がっていた。
夢ではないことは、昨夜マーカーに何度か殴られた頬の痛みが語ってくれている。それにシーツに、そして自分の身体に残る彼の香りが昨夜彼を抱いたことが嘘ではないということを物語っている。
「・・・てて、あいつ本気で殴りやがったな・・・あらら、いい男が台無し」
あちこちが軋む身体をゴキゴキと鳴らしながら鏡を覗き込めば見事な青痣になっている。これは3、4日は消えずに残ってしまうだろう。
「・・・色気ねえなあ。せめて残すんならキスマークにしてくれりゃいいのによォ・・・青痣なんて・・・」
触れればズキズキと鈍い痛みを伝えてくる痣を撫で擦り、鏡の中で唇を尖らせる自分にプッと噴き出して、そのまま声をあげて笑った。
「・・・ははは、俺達にぴったりじゃねぇか」
頬と目の縁に残る青痣と、反対側の頬にくっきりとついた平手打ちの痕。そしてボサボサに乱れた自慢の金髪をかきあげて、さて坊や達にはどう言い訳をしようかと考える。
きっと、今日顔を合わせても彼は何時もと変わらないのだろう。
互いを気遣いあって、四六時中愛の言葉を囁く関係なんて自分達には相応しくない。
そんな関係はこちらから願い下げだ。
「うるっせぇな、何ゲラゲラ笑ってやがるんだ!」
一頻り大笑いしたところで、廊下から隊長の怒鳴り声が響き渡る。
何時もと変わらない一日が始まる。が、自分にとっては目に映る全てのものが昨日とは違って見えるのはやはり、彼との関係に漸く光が差し込んできたからなのだろうか。
取り敢えず、今自分が遣るべきことはこの青痣をどうにか誤魔化し、一時も早く愛する人に会いにいくことだ。
口笛を吹きながら腫れ上がった痣に薬を塗り込み、乱れた髪をバンダナで一纏めに括りそして鏡の中の自分に向かい、小さくガッツポーズをしてみせた。
そんな子供のような自身の行動にまた小さく噴き出し、着替えもそこそこに軽い足取りで廊下に出て行く。
明日の命を保証してくれるものなんて、何所にも無い。
ましてや戦場で生きる自分達にとって、この恋がいつ終わるのかなんてものは分かる筈も無い。
極秘任務を秘密裏に受け持ち続ける特戦部隊なら尚更のこと。
たとえ命を落としても、軍の記録にも残りはしないだろう。
だから、互いの存在をそれぞれの心に刻み続ける為に、自分達は共に在ることを望むのかもしれない。
そうだろう?と声をかければ さあな、と素っ気無い応えが返ってきた。
「・・・・・・五月蠅い、御託を並べているヒマがあるのならば1分でも長く生きる努力でもしてみせろ」
こんな恋愛が在っても、良いのではないか。
少なくとも俺達にはぴったりだろう?
ANSWER
fin
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