ANSWER(32)


「マーカー、もう俺、お前のこと絶対誰にも渡さねえ」
 覚悟しておけ、とその細い身体を強く抱き締める。嬉しさのあまり力加減を誤ってしまったのか、背骨が軋むひどい痛みに悲鳴をあげたマーカーを慌てて放すと先程の可愛らしさはどこへやら、の勢いで顔面に強烈な掌打をお見舞いされた。
「馬鹿者!貴様やはり私を殺す気だな。それに誰にも渡さんなど、思い上がりも甚だしい。私は貴様の所有物ではない!」
 火がついたような剣幕で罵り、いつも通りの・・・自分が愛してやまない不敵な笑顔を浮かべる。
「私が私の意思で貴様と一緒にいてやるんだ。今度もの扱いしたら殺すぞ」
 続く言葉は3度目の口付けで遮られ、一度火をつけられた身体は猛る想いに煽られ、互いの半身を求めて絡み合った。


「・・・ッ、や・・め」
 チュ、と音をたててかたく勃ちあがった胸の飾りを吸い上げ、同時に熱く泥濘む下肢に指を絡める。
「・・・・・ん、ッ・・・・・はぁ」
 背を仰け反らせて喘ぐ身体を片腕で抱き締めることで繋ぎ止め、胸の先端を口唇に挟み込み舌先で押し潰すような刺激を繰り返し与えながら最奥に濡れた指を呑み込ませる。
 傷つけないように、快楽だけを感じさせるようにと慎重に内部を柔らかく解し収縮を繰り返す内壁を指の腹で撫で上げる。
 充分に、自分を受け入れることに苦痛を感じなくなるまで丁寧に指での愛撫を繰り返す。
 無理をさせるつもりはない。彼の媚態に先程から痛いぐらいに張り詰めている自分自身も限界を感じてはいるが、自分の欲望を解放することよりも今は彼に出来る限りの愛情を注いでやりたい。
 恐らく、感情が介入する性交は彼にとって初めてのことなのだろう。
 与えられる快楽に応えるように上がるか細い喘ぎ声も
 喘ぎ、仰け反る度に振り乱される汗に濡れた漆黒の髪も
 腕を廻された背中に、幾筋も立てられた爪痕の痛みも
 視覚で、触覚で感じるマーカーの全てが泣きたいぐらいに幸せだった。


「・・・も、いい・・・・ッ、はやく」
 受け止めきれない快楽に身を捩り、堰を切って溢れる涙に頬を濡らしながら促すマーカーに口付けを落とし、充分にそこが濡れていることを確かめてから熱く昂ぶる己自身を押し当てる。
 グ、と押し当てた瞬間緊張に竦んだ身体を抱き締め、ゆっくりと内を穿っていく。充分に柔らかく解された最奥は熱塊を呑み込み、身体の奥をかき回すそれを熱く包み込んで更に奥へと誘う。
「ひっ・・・・ああぁっ、はっ」
 圧倒的な力で存在を体内に刻みつけるそれに、掠れた声で悲鳴を上げるマーカーを宥めるように背中を撫で上げ、繋がった部分を慎重に動かしては止める。
 傷つけたくはない、乱暴にしたいわけではない。
「マーカー・・・愛してる」
 聞こえているのか、もう既に聞こえていないのか。虚ろな瞳で小さく声を上げ続けている彼に何度も囁き、その口唇を塞ぎ舌を受け入れさせた。
 張り詰めたペニスを呑み込み、ビクビクと震える細腰を抱えて一際深い場所まで欲望を突きたてるとマーカーはヒュ、と息を飲み、次の瞬間高い嬌声をあげてしがみついてきた。
 内側がきつく自身を締め上げ、その快楽に耐え切れずにマーカーの内に吐精する。
 同時に後ろの刺激と共に硬い腹筋で擦られ続けたマーカーの雄も精を吐き出し、そのまま訪れる気だるさに身を任せるようにシーツの海に身体を投げ出し、意識を手放した。


 

 全身を包み込む倦怠感の中で、ふと想った。
 今、身体が感じている痛み。
 これは、幸せを感じることが出来る痛みだと。
 痛覚に幸福を感じるとは、遂に自分もおかしくなったかと 笑いが込み上げる。
 が、奴と一緒ならばそれも悪くはないだろう。

 
 もう、あの悪夢は見ることがないかもしれないな、と、霞んでいく意識の中で微かに笑った。

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