ANSWER(31)


 毛を逆立てたネコのように一頻り怒りをぶちまけると、気が済んだのかきつく首を掴んでいた力を緩め、漸く今の自分達の体勢に気がついたように、瞳を大きく見開いて視線を逸らした。
 その自分勝手な反応に苦笑を零し、余りにも美味しい状況だが彼の身体のことを考えるとここは退くべきだと後ろ髪を引かれる思いで身体を離そうとした・・・が、今度は、自分の身体の裏切りに心の中で深く項垂れた。
 密着している体勢のせいで、明らかに反応をしている己自身がマーカーの太腿に擦り付けられている。・・・最悪としか評することが出来ない状況に時間が止まる。
 情け無さに口唇を噛んで、顔を背けたまま動かないマーカーにゴメン、スミマセンと謝罪の言葉を呪文のようにブツブツ繰り返せば不意に髪を一房掴まれ、そのまま手加減抜きに引き寄せられた。
「あだッ・・・・・」
 そして再び触れ合う柔らかく温かい感触に面食らう。息を呑む間もなく噛みつくように口唇が重ねられ、突然のそれに顎を仰け反らせると逃がさないとばかりに首の後ろに腕を廻された。
 稚拙だが先程の自分を真似ておずおずと舌を差し入れてくるマーカーに、既に限界を越えた身体は正直に反応を返し、ベッドの端から投げ出されたままの彼の両脚を膝で割り、腰をそのまま狭間に挿し入れる。
 密着した下肢が、互いの熱を伝え合う。自分だけでなく、彼もまた自分に対して反応をしていることに驚き、そしてそれ以上言葉は要らないと組み敷いた身体にきつく腕を廻した。
 そのまま角度を変える度激しさを増す口付けに、どんどん息が上がってくる。
 彼が息苦しさに喘げばより深くまで舌の侵入を許すこととなり、口唇の端を最早どちらのものか分からない唾液で濡らしながらビクビクと仰け反る媚態に眩暈がしそうだ。
 もっと彼を直接に感じたい、と自分が纏っていたシャツを足元に脱ぎ捨て、彼の上着も中国服特有の小さな留め金を外す余裕もなくたくし上げて素肌をぴたりと触れ合わせた。
 ・・・他人の肌がこんなにも熱いなんて、初めて知った。
 恐らくそれは彼も一緒だろう、と背中をゆっくりと撫で上げ浮いた鎖骨を啄ばむように口付けを落とす。
 そこかしこに散った暴行の痕を気遣いながら、身体の隅々まで自分の指に覚えさせるように一つ一つ、辿っていく。


「マーカー、好きだ」
 出会ってから今まで大切に育ててきた、精一杯の愛しさを籠めて。
「お前のことが誰よりも好きだ」
 在り来りな言葉ではとても伝え切れそうにない想いを、それでも彼に余さず伝えたくて。
「愛してる」
 真っ直ぐに黒真珠の瞳を覗きこみながら息が掛かる程の距離で微笑み、額を合わせて思いの丈を言の葉に託す。


 『なあ、マーカー。俺が本気でアイシテルって言ったら、どうする?』
 そういえば、いつだったか冗談交じりに彼に告げたことがあったような気がする。
 正面から拒絶されることを恐れて、あくまでも悪ふざけの延長を装って。


 あの時は確か、と記憶を辿る自分を現実に引き戻したのは、額を合わせたままで紡ぐマーカーの静かな声だった。
「・・・・当然だ」
 弾かれたように瞳を開き、触れ合わせていた額を離し彼の顔を覗きこむと白磁の肌は羞恥に薄赤く染まり、伏せられたままの瞳を縁取る長い睫が小さく揺れている。
「私は・・・・・・」
 小さく続けられた言葉は、途中で拗ねたように引き結ばれた唇に邪魔され最後まで聞くことが出来なかったが、熱に潤んだ瞳が全てを伝えてくれた。
 彼の本心など、その瞳を正面から見つめれば全て伝わる。言葉などなくても充分だ。


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