ANSWER(30)


9 / answer

 此処、の感触なんて皆同じで変わるものではないと思っていた。

 しかし、愛しい相手と交わす接吻がこんなにも違うものだなんて、生まれて初めて知った。


 深く啄ばみ、顔の角度を変える度に互いの吐息が僅かに空いた空間を埋めるように絡み合い執拗に繰り返されるそれに息苦しさを覚えたのか、薄らと開いたマーカーの口内にするりと舌を滑り込ませる。
 ク、と微かな声がマーカーの喉の奥から漏れたが、初めての深い口付けに戸惑う彼を気遣える程の余裕も残念ながら自分には無い。
 逃げる舌を追いかけ、捕らえ、舌先で突付くように触れた後で絡ませ合う。
 綺麗に並んだ歯列を舌先で辿り、一箇所だけぽかりと空いた窩の感触に一瞬だけ眉を顰めたが、彼が受けた暴行の痕を刺激しないように、忙しなく狭い口内を弄り続けた。
「・・・・・・・・・っ、」
 苦しそうに喉の奥で息をつくマーカーの細い身体をしっかりと抱きとめ、覆い被さるように口付けると彼の膝が僅かに震えているのが感じられた。


 怪我人に無理をさせていいわけがない、と僅かに残った理性が制止を促してはいるが、雄の本能がその制止を振り切ってより一層の強さで彼を貪ることを欲している。
 初めて彼の瞳に囚われた日から渇望し続けていた、愛しい存在を自分の腕に抱くことへの喜びに吐息に熱が篭るのを止めることが出来ない。
「やっ・・・・・・ぁ、・・・めろ、馬鹿者・・・・ッ」
 息苦しさに耐え切れなくなったのか咳き込みながら途切れ途切れに自分を罵り、既に力の入らなくなった腕を突っ張るように身を引いたマーカーがそのまま支えを失い背後の寝台に倒れ込む。
 自分を突き飛ばすように押し退けた後で膝がいうことをきかなかったのだろうか、背後に掛かる体重を脚で支えることが出来ずに為す術もなく柔らかいシーツに仰向けに倒れたまま身体を起こすことも出来ずにゲホゲホと大きく咽込んだ。
「わりぃ、大丈夫か」
 つい夢中になっちまって、と頬を人差し指で掻きながら、起き上がるのに手を貸してやろうと片手を差し出しかけた瞬間視界が捉えたその光景に、体温が急激に上がるのを自覚した。
 己の寝台にしどけなく倒れこみ、真っ赤に染まった口唇からは先程の口付けの名残を残すように薄く唾液が顎まで伝っている。荒い呼吸を繰り返しながら天井を見つめる瞳は息苦しさ故なのか、涙が滲んで潤んだままだ。
 

「・・・ッ・・・」
 扇情的としか言い表し様がないその媚態にゴクリと唾を飲み込み、思わず出しかけた手を引こうとした瞬間。
 徐に仰向けに転がったまま伸ばされたマーカーの手に乱暴に手首を掴まれ、そのまま強く引かれて事態を把握できないうちに視界が目まぐるしくかわった。
 何が起こったのかが理解できず、気づけば自分はマーカーを組み敷くような体勢で自分の寝台に両腕をついていた。
「――――!!」
 目を見開いて声にならない叫び声をあげる自分を、ベッドについた両腕の間からマーカーが睨み上げてくる。いつのまにか引き倒されたときに捕まれた手首は解放され、そのかわりに襟首を掴まれ強い力でぐいぐいと引き寄せられている。
 どういうつもりなのかは知らないが、頼むからこれ以上刺激しないでくれ、と彼が本調子の状態ならばとうに理性など放り出している状況に心の中で涙した。これでは蛇の生殺しもいいところだ。
「貴様、私を殺す気かッ・・・・危うく窒息するところだったぞ!」
 こんな状況、にも関わらず射殺すような瞳で睨みつけてくる彼に本気で頭を抱える。
 色事に疎いどころの話ではない。


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