ANSWER(29)


「・・・何時まで泣いてるんだ、子供じゃあるまいし」
 暫く顔を伏せた後、困ったようにこちらを見上げるマーカーの頬に静かに手を添えてゆっくりと顔を傾ける。しかし、一瞬驚いたように瞳を見開いた後にギュッと閉じ、全身を強張らせた彼の反応に途中まで近づけた顔を止めた。
 やはり、未だショックが抜け切らないのだろうか。
「大丈夫か?」
 小さな声で尋ねると、恐る恐る瞼をあげたマーカーが拗ねたような表情でぼそりと呟く。
「・・・初めてだから勝手がわからんだけだ。気にするな」
 さらりと紡がれた、あまりの予想外の言葉への驚愕に、至近距離で間抜け面を晒す羽目になった。
「はぁぁ?!・・・お前、だって俺らと一緒に散々、女買ったりもしてただろうが・・」
「只の処理に、接吻は必要がないだろう。」
 確かに、言っていることは正論だ。が、世間一般の常とは明らかにずれている。
 呆気に取られた顔でまじまじと見つめる自分に向かい、己は間違っていないと睨み返してくるマーカーに再び胸に込み上げてくるものを感じ、未だ涙が乾かない瞳で笑顔を向けた。
「・・・っとに、全く・・・お前、ってことは俺がはじめてか?」
 五月蝿いと顔面に一発入れられたがその痛みなど、どうでもいい。
 参った、幸福感でおかしくなりそうだ。

 不貞腐れたように瞳を閉じたマーカーの鼻先に軽く口付けを落とし、そのまま静かに重ね合わせた口唇は驚くほどに柔らかく、しっとりと重なった口唇と一緒にはじめて心が触れ合えた気がした。



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