ANSWER(21)


「…今はとりあえず休ませてます」
 フーンと適当な返事を寄越す隊長の顔を見ることが出来ず、頭を垂れたまま続ける。
「勝手なことしてすいませんでした。罰は覚悟してますから」
 隊からの除名も、ガンマ団そのものからお払い箱になったとしても。
 その位の処罰は覚悟の上で出て行ったのだ。今更どんな処分を受けようとも取り乱したりなどはしない。
 マーカーの命を救った代償に、彼と自分とを繋ぐ唯一の絆を失ってしまうとしても。

「罰?…ハッ、オメーなんか勘違いしてるんじゃねぇか?」
 吐き捨てるような怒鳴り声の後で、すぐにそれはクックと小さくかみ殺すような笑いに変わり。伺うようにゆっくり顔を上げるとそこには、穏やかな笑顔を浮かべる上司の姿があった。
「部下の失態は俺の責任なんだよ、テメェらのケツぐらい拭いてやらぁ」
 分かったかこのションベン野郎、と傍らにある中身の満たされた酒瓶を投げて寄越す隊長に、やっとの思いで向けた笑顔は随分と情け無いものだったに違い無い。
「隊長・・」
 特戦部隊に所属されてからはじめて、隊長に心からの感謝を述べようと開きかけた口唇をあっさり途中で遮られた。
「それに言い様によっちゃ、手柄にも早変わりだ」
「…・は?」

 ヒヒヒとほくそえむ隊長に、何事かと尋ねてみれば喜々として答えが帰ってきた。
「いやよ、オメーがいねえ間にリキッドとG使って阿片の精製施設と密輸武器の倉庫潰してよ。調べてみたんだがあいつら後ろ盾が大したもんじゃなかったからよぉ、たんまりと土産が手に入ったぜ」
 金額にすりゃどでかいもんだろうな、と満面の笑顔を浮かべるハーレムの言葉に今更ながら自分が失念していたことを思い出し、ゾクリと背筋をふるわせた。
 チャイニーズマフィアの繋がりは広く、その勢力は華僑を媒介に世界の至るところに点在している。
 国の要人との太いパイプを持っている者も多く、うっかり一箇所に手を出せば手に負えない範囲まで飛び火してしまうことも有り得る、今考えれば恐ろしい賭けだったのだ。
「ハーレム隊長、すいません俺ッ・・」
「だから謝んなって言ってんだろうが。テメェら、あのクソビデオレターの送り主もきっちり殺ってきたんだろ?」
 マーカーが始末しました、と報告すれば問題無しだ、と豪快に笑い口唇の端から細い筋を流しながら酒を飲み干す。
「ま、終わり良けりゃそれでいいじゃねぇか」
 

「…・マーカーが」
「あん?」
 新しい酒瓶を手探りで探し、栓を抜いてチビチビと舐める隊長が訝しげな顔で、まだ何かあるのか?と瞳で問いかけてくる。
 まだ確信は持てないが、胸の中の不安は膨らむばかりで埒があかない。
「あいつ、大丈夫ッスかね」
「だから、何が」
「いや…いいっす、失礼しました。隊長あんま呑み過ぎないで下さいね」
 うるせえ、とっとと行っちまえと、今度は顔面目掛けて投げつけられた空き瓶を空中で受け止め、髪を纏めていたバンダナをスルリと抜き取り最後にペコリと頭を下げて部屋を後にした。
 すっかり昇りきった太陽の光が窓からさしこみ、その目が眩む程のまぶしさに瞳を細めて手の中の瓶をクルリと回しながら マーカーの元へ歩き出す。

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