ANSWER(16)
一触即発の空気を破ったのは、予想外に男の発した穏やかな声だった。
「私は五体満足で彼をお返しすると約束しましたからね、どうぞ、あなたはここで死んで貰いますが、約束は守りますよ」
その言葉に一瞬面くらい、眉間に皺を寄せた。
「はぁ?」
「ですから、彼をエレベーターに乗せて1階のボタンを押すまでは、待って差し上げるということです。お分かりになりますか?」
勿論、その後であなたは死んで貰いますがとにっこり笑みを浮かべる男に頭が混乱する。
こいつら、本気でマーカーの命を取る気はないのか?幾ら一兵士とはいえ、ガンマ団の兵士を拷問した末に逃がせば、本部からどういった報復が施されるか想像つかない訳ではないだろう。
どうにも狙いが読めず、ガシガシとバンダナで押さえつけた後頭部から覗く髪を掻き乱す。
…が、しかしこれは絶好の機会でもある。
薬で眠らされているのかもしれないが、マーカーとの距離を無くしてしまえば例え彼の意識がなくても戦いながら守り切る自信はある。
「…・よし、OK、わかった。それじゃ先ずは仲間を返してもらおうか」
低い声で男に告げると、どうぞ、と手でソファまで歩を進めるように促された。
部屋の壁際に並ぶ男達に銃を向けられながらゆっくりとソファに歩み寄り、手を伸ばせばすぐ彼に触れられる距離まで近づきゆっくりと腰をかがめる。
「マーカー・・俺だ、起きろコラ」
頬をペチペチと叩き、肩を揺すればきつく閉じられていた長い睫に縁取られた瞳がゆっくりと開き、そしてその昏い瞳に自分を映し出す。
「マーカー?」
パチパチと不思議そうに何度か瞬きを繰り返した後、黙ったままゆっくりと身体を起こしたマーカーに笑顔を浮かべ、手を差し伸べれば
ずく、と脇腹に食い込んだ冷たい鉄の感触と
其処からジワジワ伝わってくる焼けつくような熱さと
すぐ耳元で聞こえるような早鐘のように打ち鳴らされる心臓の音と
全ての感覚が、其処に・・只一点に集中する。
そして腕の中に倒れこんできたマーカーの片手にしっかり握られた血塗れのナイフと紅を引いたように紅い彼の口唇に僅かに浮かんだ笑みを認め
「マジかよ…悪い、冗談・・」
ゆっくりと、自らの流した血液で紅く染まった絨毯に倒れ伏した。
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