ANSWER(15)


「ガンマ団は無抵抗の女も殺すのか」
 その言葉に、肩を竦めてみせる。
「あいにく、同じ失敗を二度繰り返すわけにはいかないんでね」
「…・ボスがお呼びだ。捕虜も一緒にいる。俺について来い」
 罠か、とも思ったが、自分の返事も待たず先にスタスタと部屋を出て行く男の後を黙って続くことにした。
 自ら罠の中に飛び込んでいくことは危険極まりないが、一人で大勢の兵士を相手にすること自体は通常の任務で嫌と言うほど慣れている。
 それに相手が碌に訓練もされていない烏合の衆ならば、その場で纏めて始末することも出来るだろう。どちらにしても、自分が圧倒的不利に立たされる確立は低い。


 人気の無い冷たい廊下を、自分に背を向けたまま一言も発しない男に神経を集中させながら歩いていく。
 無言で案内されるままに後に続き、そして大きな扉の前で男が足を止めた。
「入れ」
 ギギ、と重い扉を押し開け部屋の中に促され、足を踏み入れれば一斉に、部屋の隅に並んだ黒服の男達に銃を向けられた。
 そういった敵意を向ける連中には、挨拶代わりと脅しを兼ねて少しばかり血を見て貰うのが常なのだが、ざっと部屋を見渡した時に視界に飛び込んできた、豪華に飾り立てられた部屋の真ん中に並ぶ接客用と思われる黒い革張りのソファに、視線が釘付けになってしまった。
 艶のあるソファに横たわる自分と比べれば折れそうに細い肢体。
 薄手の蒼い中国服に身を包み、投げ出された腕はその白い肌に醜く変色した青痣を残している。
 眠っているのか、それとも死んでいるのか。白磁の肌は何時も以上に色を失い透き通るような儚さを纏っていた。
「よく来たね、歓迎するよ」
 不意にかけられた声に漸く横たわるマーカーから視線を外すと、奥の椅子に腰をかけた男がニコニコと不快な笑みを浮かべている。
 あの、男だ。と確認した瞬間一度は無理矢理心の奥底に押し込んだ怒りが再び湧き上がる。
 マフィア達の頭で、ガンマ団特戦部隊に楯突いた愚かな男。
 そして何よりも、マーカーを陵辱した男。


 怒りに任せて今すぐにこの男を八つ裂きにしてやろうか、とも思ったが、きっとそうなれば自分は兎も角、身動きのとれないマーカーは一斉射撃を受けて確実に命を落とすだろう。
 逸る気をおさえて、大きく深呼吸をした。
 急ぐな、ここまで来て台無しにするつもりか?全ての始末はマーカーの安全を確保してからだと自分自身に言い聞かせ、男に片腕をあげて軽く挨拶をしてみせた。
「仲間が随分と世話になったみたいで。」
 飄々とした態度で告げれば、相手は楽しい見世物を前にするように大袈裟に手を叩いて口元を嫌らしく歪める。
「礼には及びませんよ。いや、なかなか気が強くて、可愛らしい人でした。」
 上品だが粘りつくような喋り方がひどく気に障る。
 苛立ちを殺し、挑発的な笑みを浮かべて片手を翻した。
「だろ?当然。んでも、あんたらにくれてやるわけにはいかねぇよ」


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