ANSWER(14)


 たとえ直属の部下といえども、他人に腹の内を決して読ませない隊長はあの後すぐにどこかへ出かけていき、そして自分も2人には何も告げずにひっそりと姿を消した。
 退職届でも書いてくれば良かったか、それとも遺書の方が相応しかったか。
 自嘲気味に唇の端を吊り上げ、大きく息を吸い込んで脳裏に浮かんだ2人の同僚が慌てふためく様を思い描き、微笑を浮かべた。
 …3
 いや、きっと慌てふためくのはあの小猿だけでGはこんな時でも相変らずの仏頂面のままだろう。
 …2
 次に浮かんだ獅子舞の顔は無理矢理意識の外に除外する。大仕事の前に縁起の悪いものは成る丈御遠慮願いたい。
 …1



 つま先で足元の硬いコンクリートを蹴り、そのまま身体を目の前の虚空に投げ出した。
 飛ぶ宝石と比喩される翡翠の狩りの様に、真っ直ぐに地上に落ちながら眼前に迫ってくるネオンライトを睨みつける。
 顔に叩きつけられる風は刃のように冷たく容赦なく牙を剥いてくるが、ともすればこの数日間溜め込んだ、吐き出しようがない怒りに熱が上がってしまいそうな頭を冷やすには丁度いい位だ。
 120…。110、100…90階。
 視界にめまぐるしく映し出される同じような形をしたビルの窓に、そろそろかと加速をつけ重力に呼ばれるがままに投げ出していた身体を空中でグッと思い切り捻り、勢いをつけて厚い窓ガラスを蹴破った。

 室内の明かりを包み込んでいた豪華な飾り窓が、大きな音と共に粉々に砕け散り部屋にいた十数人の男達は、彼らの視界に闇の中から飛び込んできた黒い人影を捉えた瞬間一陣の旋風に巻かれ、絨毯の上に真っ赤な飛沫を上げて飛び散る肉片に姿を変えた。
 足元を掬われ、風に巻き上げられた男の身体が一瞬後には引き千切られて無残にボトボトと落とされる悪夢のような光景を目の当たりにして、腰を抜かして動くことも出来ずにガタガタと震える女にゆっくりと向き直り、構えたベレッタの照準をその白い額にあてた。
「ガンマ団特戦部隊、ロッドってもんだお嬢さん。アポなしで悪いね。
…早速だが、俺の質問に答えて貰おうか」
 Noとは言わせない、と睨み付けた瞳に、女は怯えたようにコクコクと何度も首を縦に振った。


 立ち並ぶ高層ビル群の中のひとつ、自分が貧民窟を虱潰しに当たって掴んだ不確かな情報。
こんな目に付く場所に果たしてマフィア達の根城があるのかと初めは疑りもしたが、どうやらその情報に間違いはなかったらしい。
 阿片の精製と武器の密輸で莫大な利益をあげているらしい組織の中心がまさか地上から遥かに上に位置しているといえども、繁華街の中心地に在るとは。
 こことは全く別の場所に阿片の精製工場が存在しているらしいが、そちらには興味は無い。
 自分の、目的は只一つだけなのだから。



「……です、ガンマ団の男は、地下と1階の一部を繋いだ場所にある部屋に…それ以上は知りません。本当です。」
 べそをかきながら女が話した内容に片眉を上げ、とりあえずはそれで充分、とウィンクをしてみせた。
 マーカーは未だ殺されていない。
 それが確認出来ただけでも充分だ。
「サンキューお嬢さん。それじゃ、安らかに。」
 女が目を見開いた瞬間、眉間に照準を定めていた銃が下ろされかわりに鋭い鎌鼬が彼女の細く頼りない首を一息に断ち切った。
 喉がヒュウ、と音をたてたがもう既にそれは言葉として聞き取れるものではなく。
 胴体から切り離された首が足元にゴロリと転がる様をさめた瞳で一瞥し、返り血に塗れた頬を袖で拭うと、いつの間に部屋に入ってきたのだろうか。先程部屋にいた人間を一掃したときには見なかった長身の男が、憮然とした顔でこちらを見つめていた。


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