ANSWER(11)


「…・っ、またかっ」
 不意にギリギリと酷く痛みだした頭を両腕で抱え込み、熱く火照る頬をコンクリートの壁に強く擦りつける。
 壁に走る古い皹が柔らかい肌を傷つけ、血を滲ませたがとりあえずは力づくで引き抜かれた奥歯の窩が生む熱をどうにか紛らわせることだけしか考えられなかった。
 新たな傷を作って痛みを紛らわすなど、愚の骨頂だと頭の奥では理解しながらも身体がそれを裏切り勝手な行動を起こしてしまう。
 全身をひどい倦怠感に侵されながら投げ出していた左腕を目の高さまで掲げてみれば腕に残る無数の注射針の痕が青紫色に変色していることにまた気が重くなった
 馬鹿の一つ覚えのように何度も何度も。
 どのようなものをどれだけ注入されたのかは分からないがおかげ様で今現在、こうして普通に座っているだけでも逆さ吊りにされているように頭が重い。
 …随分と手の込んだサービスをしてくれるではないか。
 この代償は高くつくぞ、と左腕を持ち上げていた力を抜き、つい先程まで中断していた行為を渋々と再開させた。

「くっ……・」
 なるべくソレを見ないように、仰け反るように天井を見つめたまま、指先に感じる粘ついた感触に顔を歪める。
 自らの双丘に指を埋め、内部に残った欲望を掻き出す行為に耐え難い程の嫌悪感を伴うがそのままにしておけば、すぐに体調を崩すことは火を見るより明らかだ。
 それに、いつまでも他の男の排出した精液を身体の中に留めていることを考えるだけでも吐き気がする。
 それならばと自分の指でドロリと固まりかけた白濁を掬い、無造作に床に垂らし、それを幾度も幾度も繰り返す。

 ガンマ団という組織は自分達が考えていた以上に、其処彼処から恨みを買い集めていたらしい。
 この僅かな時間に一体何人の相手をさせられたのか、既に数えることも馬鹿らしくて途中で止めた。
 朝から晩まで私刑紛いの一方的な暴行を受け、性欲処理の道具として扱われ、傷も癒えないうちに得体の知れない薬を打たれてまた別の男に宛がわれる。
 鎖に繋がれた者を一方的に嬲ることでしか優越感を得られないとは、哀れなものだ。
 このような愚行に屈する自分では、ない。

「…っふ、ぁあ…・・っ……・んん」
 何も、考えないように。
 指先が赤く腫上がった秘部の裂傷を掠め、その痛みにビクリと背を震わせた。
 …何も、考えないように。
 
 身体に直接注がれた例の毒がまだ効いているのか、鈍い頭痛と倦怠感が治まらず何度か試してみたが結局炎を生むこともできなかった。
 しかし今ならば誰にも邪魔されずに舌を噛み千切って命を絶つことは出来る。
 生き恥を晒すぐらいならばこの場で、とも思ったが、罠に嵌められて一矢報いることも出来ずこのままむざむざと死を迎えることも己の主義に反する。
 あの男を、地獄の業火で燃やし尽くすまでは。
 こんな場所でいつまでも油を売っているわけにはいかない。
 
 傷ついた頬からダラダラと鮮血が滴り落ち、床にぽたぽたと紅い花を咲かせた。
 …今更、身体の傷が幾つ増えようがかまうことではない。

 傷つけられたものは、肉体ではなく己の誇り。
 目の前の闇を睨みつける昏い紅玉のような瞳に宿したものは、内に封じられた炎と揺ぎ無い決意。


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