ANSWER(9)


 映像が途切れる前に、それを映し出していた液晶画面が粉々に砕け散り四散する。
 一瞬にしてキラキラと光る屑の山に姿を変えた本部支給の高価なモニター画面に、正面の椅子にだらしなく腰掛けていたハーレムはピクリと眉を動かしたがそれ以上部下の癇癪を咎めることはしなかった。
 ハァハァと荒く息をつきながら怒りで顔を真っ赤に染める男に今何を言ってもまともに届きはしないだろう。
 放っておけば怒りと苛立ちに任せて部屋中を目茶目茶にしてしまいそうなロッドを後ろから羽交い絞めにしていたGも、事の重大さに目で指示を求めてくる。

 今朝方阿片街から迷い込んできたような薄汚い半裸の男が運んできた小さなチップと御丁寧に高級菓子を包装するような薄紙に包まれた血に塗れた臼歯を目にした時から嫌な予感は感じていた。
 部下の中でも自由奔放なイタリア人と、幾度もの脱走を試みてことごとく失敗を繰り返している新入りと違い任務に関しては誰よりも真面目に取り組む中国人が連絡もなしに一晩姿をくらますなど今まで一度としてなかった。
 怒りのあまり母国語のスラングで何やら喚き散らしているロッドを横目で見遣り、ハァ、と溜息をつき煙草を咥えて瞳を閉じた。
 
「何悠長にしてんだよ、ハーレム隊長!畜生、チャイニーズマフィアだか何だか知らねえが舐めた真似しやがって!!クソ、全員ぶっ殺してやる」
「隊長ーーーっ、隊長ーーなんで俺だけ外に出されるんスかーーーっいれて下さいってばねえ、ねえ聞いてるんスかこの親父ーーーッ」
 足元に気流の渦を起こし、机の上に束ねてあった書類を派手に撒き散らしながら叫ぶロッドに加えて、再生した映像の内容を確認した瞬間無言でGに部屋の外へ摘み出されたリキッドがドンドンと鍵のかかった部屋のドアを叩く音が苛立ちに拍車をかける。
 折角の考えが纏まりやしない、とバリバリ頭をかきながらGにリキッド坊やをいれてやれと目配せをした。
 正面からマーカーを奪還することも簡単だ、が、面倒なのはマフィア同士のやたらに固い結びつきである。
 そこを把握してからでないと、下手に手を出しては面倒事が数倍になって返ってくることになるだろう。やはり、これは一度本部に連絡をいれてマフィア同士のパイプを完全に掴んでからの方がいいと判断する。

 さて、どうするかと眉間に皺を寄せたところで、勢い良く飛び込んできたリキッドが握り拳を震わせてロッド以上の大声で力説を始めた。
「よく事情がのみこめないんスけど、マーカーが拉致られたんスよね?!ダチが拉致られた時にはどんな罠があろうとも、正面から特攻かけんのが男ってもんっスよ!!俺ぁ行きますよ、闘りますよ、本気と書いてマジっすよ!!」
「…眼魔砲」
 これ以上面倒事を増やすな、と血気盛んなヒヨコに至近距離での眼魔砲をくらわせ、泡を噴いて倒れたリキッドを縄で結わえて置け、とGに命令する。
 荷物のようにGに担がれて部屋を後にするリキッドを見送った後、リキッドと同じぐらい錯乱していた筈のロッドがやけに大人しいことに眉を顰めた。
 俯いたまま、口唇を噛み締め爪が食い込む程握り締めた手は血の気を失っている。
 全く、どいつもこいつも。
「オメーの気持ちも分かっけどよぉ…取り敢えず先走ることだけは止めておけよ。まあ、指示は追々出すからよ。メシでも食って何時でも出られる準備しとけや」
 無言で部屋を出て行くロッドの背中に声をかけ、ハァァと大きく溜息をついてから先程自分が咥えた煙草の先端に何時もならば点っている筈の火が無いことに苦笑を零した。



「一人たりねえと、どうも調子狂うな…めんどくせーがとっとと、取り返すか」
 どこへやったのか、思い出せないマッチをデスクの引き出しから探しながら本部で待機する直属の有能な部下に連絡をとる為、滅多に使わない通信機のスイッチを入れた。

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